唯一無二の“色”を生み出した銅版画家の軌跡を目撃しに『ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション』へ。
ではこの「カラーメゾチント」とはなんぞや、というのが現在開催中の開館25周年企画展「黒の中の色彩-カラーメゾチントを探る」でも詳細に扱われている。「メゾチント」とはそもそも「中間階調」を表す言葉。銅板に傷(めくり)をつけることで、その部分が黒く刷り上がり、薄い黒から濃い黒のグラデーションを表現できる技法だ。浜口が生み出したカラーメゾチントでは、黄版、赤版、青版、黒版のメゾチント4版を用いて、最小限の色数ですべての色彩を表現可能とした。現代でいうと、『Illustrator』や『Photoshop』などのソフトウェアのレイヤーを重ねる作業を浮かべると想像しやすいかもしれない。
そんな4枚の原版を見ると、それぞれが肉眼でも観測が難しいほど緻密に削られ、薄く揺らぎのある線でその画面が構成されていた。この途方もない作業によって浜口独自のやわらかな空気感が生み出され、「誰も見たことがない色合い」をこの世に刻んだのだ。
とんでもない時間と労力をかけ、モノクロの世界にカラーを持ち込んだ浜口だが、制作する作品に合わせて版の作り方までも変えており、そのこだわりぶりにも驚嘆する。ひたすらに芸術表現を追求する作家の生き様が刻まれた作品は、唯一無二の輝きを放つ。そんな懐深い作品との、これまた唯一無二の出会いがここにあるのだ。
インフォメーション
『ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション』 館は今年で25周年を迎える。浜口陽三はフランスとアメリカで人生の大半を過ごし、96年に日本に帰国した。98年の美術館の設立時、車椅子で訪れた際には「画家として最高の褒美をもらったような喜び」と表現したんだとか。パートナーの南桂子も版画家だ。少女・鳥・樹木などを題材とした叙情的で繊細な「銅版詩」を描く作家として知られ、谷川俊太郎やオスカー・ワイルドの著作の表紙画にも使用され、国際的にも幅広く評価される作家の一人だ。 ◯東京都中央区日本橋蛎殻町1-35-7 ☎︎03・3665・0251 11:00~17:00(土、日、祝日は10:00~) 月、年末年始、夏期、展示替え及び特別整理期間・休 photo: Hiroshi Nakamura, text: Ryoma Uchida, edit: Toromatsu
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