赤字常態化の3セク鉄道「危機のレベル変わった」…沿線自治体「離脱したいという話も出てくる」
中でも赤字幅が大きいのが、熊本―鹿児島両県を結ぶ「肥薩おれんじ鉄道」の約8億8000万円だ。海沿いを走る観光列車でも知られるが、20年の九州豪雨で被災し、打撃を受けた。
貨物輸送でも頼る鹿児島県側は、県市町村振興協会が昨年、5年間で最大7億1900万円の支給を決めたが、「今回限り」とする条件をつけた。両県は今年度中をめどに設置する法定協で経営改善を図る考えだ。
多額の負担
平成筑豊鉄道では、「上下分離方式」かバス高速輸送システム「BRT」の導入、路線バスに転換――の3案が検討される見通しだ。
事業者は運行に専念し、自治体などが線路や駅の管理を受け持つ上下分離方式は、路線維持の「切り札」とも言われる。16年の熊本地震で甚大な被害を受けた熊本県の「南阿蘇鉄道」は、この方式を採用して23年7月に全線で再開した。JRへの乗り入れを実現して利便性も高まり、23年度決算は黒字を達成。ただ自治体には毎年負担がかかり、県は同年度、施設整備費など約1200万円を支出した。
線路をバス専用道に切り替えるBRTの導入には、多額の整備費が必要となる。長崎県や地元自治体が見直しに関与する同県の民営鉄道「島原鉄道」では、BRTを早々に見送り、上下分離と路線バスの2案に絞った。だが、運輸業界が人手不足に陥る中、バスの運転手確保も至難の業となる。
公共交通網の消滅による地方の衰退を防ぐため、国土交通省も23年度から、鉄道やBRTの施設整備にかかる自治体負担の半額を補助する仕組みを導入。まちづくりや観光戦略に結びつけることを条件に交付する。
関西大の宇都宮浄人教授(交通経済学)は「赤字にとらわれがちだが、渋滞を起こさずに多くの人が移動でき、環境に優しい鉄道路線は地域の財産だ」とし、「法定協では、若者から高齢者までが安心して暮らせる地域を維持する方策を議論し、地方から国に声を上げていくことも必要だ」と指摘する。
◆第3セクター鉄道=官民が共同出資して設立する鉄道事業者。1987年の国鉄民営化に伴い、1日の利用者が1キロあたり4000人未満の不採算路線を存続させるために転換した事例が多い。