【里崎智也】「ピンチでの初球どうするか論争」正解はないがボールから入れば捕手は苦しくなる
<阪神0-1中日>◇25日◇倉敷 週頭の試合で阪神は勝ち頭の才木が先発。勝負の分岐点に注意を払いつつ、私は1つのテーマにフォーカスしていた。捕手の配球として「ピンチでの初球どうするか論争」だ。 【写真】先制を許し、悔しそうな表情を見せる才木 リーグ戦再開後、岡田監督はピンチでの初球の入り方についてメディアを通してメッセージを送ってきた。趣旨としては、打たれているのは初球が多いと指摘し、初球の入り方への工夫を示唆したものだった。 これは捕手にとっては永遠のテーマ。私も経験を通してずっと考え続けてきた。その上で、たどり着いたのは、このテーマに正解はないということだ。結果論で初球について吟味される捕手のつらさは、経験者にしか分からない。 では阪神-中日戦はどうだったか。阪神が得点圏に走者を送られたのは4回1死一、二塁。ディカーソンに対し才木-梅野は初球ど真ん中のフォーク。これを見逃してワンストライク。このストライク先行が奏功し、フルカウントから捕邪飛。 2死一、二塁。福永への初球は真っすぐでボール。そのまま3ボールとなり、福永はストライクゾーンを小さくして待てるため、バッテリーはますます苦しくなった。結果は四球。 そして2死満塁で加藤匠を迎えた。初球ど真ん中スライダーでファウル。フルカウントから最後は空振り三振。次の得点圏は8回2死三塁。ここで板山へは初球真っすぐがボールでワンボール。結果は1-1からスライダーを右前タイムリー。この試合に限れば、ピンチでストライクから入ったケースは2度とも抑え、ボールから入ったケースは四球と適時打となった。 梅野からすれば、ピンチでの初球の入り方をかなり繊細に考えていたと感じた。ちなみに、私はピンチでの初球はボールから、という考え方は好きではなかった。 初球から振ってくるバッターは、1ボールからでも振ってくる可能性がある。初球ストライクを狙われるリスクはあるとしても、ファーストストライクを取れれば、打率を抑えられ、逆にボールから入ると打率は上がる傾向にあった。 捕手として選手をまっとうした立場から、初球どうするか論争に正解はない。唯一言えるのは、ピンチでは厳しく入る、だけだろう。打たれることを恐れ、ボールから入れば、捕手は苦しくなる。それはいつの時代も変わらない。 ここから、ペナントは折り返し地点を目指し、いよいよ過酷になる。お互いにデータもそろい、ますます研究される。そこでも、同じようにピンチは訪れ、初球の入り方を捕手は悩む。 抑えてほっとし、打たれて追及される。これも捕手の宿命かもしれない。今回、初球どうするか論争にぴったりの内容だったので、12球団すべてが抱えるこの難題について考えてみた。 非公認団体「捕手を守る会」の名誉会長として、これからもピンチで冷や汗をかきながらサインを出す捕手の心労に思いをはせてほしい。応援するチームの勝利を願う際の、ひとつの参考にしてもらえれば、幸いだ。(日刊スポーツ評論家)