安い電気を“買いだめ”するという発想 ポータブル電源は「家庭用蓄電システム」の夢を見るか
想定される2つの「宿題」
余剰電力の廉価販売は、Looopのような小売事業者だけでなく、電力大手でも行われている。例えば九州電力では、太陽光発電が余る時間帯には「使っチャレ」というチャレンジ企画を実施している。これは指定された時間に通常以上の電力を使うと、その分がPayPayポイントで還元されるという仕組みだ。 筆者はこうしたイベントが発生するたびに手動でポータブル電源への充電時間をセットしているわけだが、こうしたことが自動化されれば、電力会社にとっても利用者にとっても大きなメリットがある。 ただポータブル電源への充電は、安いからといっても充電容量には限度があるし、高いからといって放電しっぱなしにしても容量がそこを突く。1日の電力利用をサイクルとして勘案しながら、明日は電力が安くなる予報だから前日にはなるべくバッテリーの空きを多くしておこうとか、雨が続くから安くはないが、強いていえば安いといえる時間帯を探して充電するといった、細かい傾斜配分が必要になる。 そうした毎日変化する事情への対応が、YanePortのアルゴリズムに要求される。さらに言えば、ユーザーのバッテリー残量はまちまちなので、それにも自動対応する必要がある。おそらくAIを使って1台ずつ個別に制御することになるのだろうが、そのAIを鍛えるための、1年間の実証実験ということだろう。 もう一つの宿題、というか懸念としてあるのは、そもそもこうしたサービスが成立するのは、太陽光発電のせいで電力料金が時間変動するからである。だがこうした変動に対応すべく、現在系統電源に接続する大型蓄電施設の建設が、日本全国で活性化している。系統電力用蓄電施設の運用も、電力事業者として正式に認可されたからだ。オリックス、KDDI、石油資源開発(JAPEX)、日本蓄電、東京ガスなどの大手企業が続々と名乗りを上げている。 こうした大規模な系統電力蓄電施設が稼働を始めれば、電力料金の市場価格も変動が抑えられ、平たん化する可能性がある。つまり料金の差を利用しての利ざやで稼いでいる電力小売ビジネスは、次第に成立しなくなっていくのではないだろうか。