サイゼリヤ絶好調、ワタミは再挑戦……円安で海外展開急ぐ外食企業、中国市場での勝算
丸亀製麺を運営するトリドールホールディングス(トリドール)と、和民を展開するワタミグループ(ワタミ)がこの春、中国市場に再進出した。それぞれ2012年、2005年に中国本土に進出したものの、思うように規模を拡大できず撤退した。中国は昨年から景気低迷と消費不振に苦しみ、コロナ禍前と比べてマーケット環境が一変しているが、両社は過去の失敗を教訓に戦略を練り直し、圧倒的な低価格で成功したサイゼリヤに続こうとしている。 【全画像をみる】サイゼリヤ絶好調、ワタミは再挑戦……円安で海外展開急ぐ外食企業、中国市場での勝算
丸亀製麺閉店しラーメンで再進出
ワタミは5月27日、焼き鳥居酒屋「三代目 鳥メロ」を深圳市にオープンした。同社は4年ぶりの飲食店出店にあたり「中国本土の外食市場が持つ大きな可能性を見過ごすことはできない」と強調する。 ワタミは2001年の香港出店を皮切りに海外展開に着手、2005年に「居食屋 和民」を深圳にオープンし、中国本土にも上陸した。当初は富裕層をターゲットにし、ピーク時の2014年には42店舗まで拡大した。だがその後は賃料や人件費の上昇、競争の激化などで採算が悪化して店舗数が減少していく。2020年に新型コロナウイルスの流行が始まると当時営業していた7店舗を全店閉店し、中国市場から撤退した。 トリドールは看板ブランドの丸亀製麺ではなくラーメンで中国市場に再挑戦する。4月8日、上海に「ラー麺ずんどう屋」を開業した。 同社は2012年に丸亀製麺の中国1号店を上海にオープン、ピーク時の2018年には69店舗を展開していたが2022年までに全店閉店した。進出時に「2015年に100店舗体制」との目標を掲げていたが足踏みが続いており、トリドールの杉山孝史副社長兼COOは「中国市場の大きさを考えれば物足りず、成長の限界を迎えていた。コロナ禍のタイミングで仕切りなおそうと判断した」と説明した。
中国へ積極展開も、苦戦続く日本企業
人口減少を背景に、日本の外食企業は近年海外展開を積極的に進めてきた。 日本経済新聞の5月13日の報道によると、国内外食の売上高の上位企業10社(日本マクドナルドを除く)の直近決算期末の海外店舗数は約1万3000店舗に達し、店舗数全体の42%を占めた。19年度末時点の29%から一気に13ポイント上昇したという。 歴史的な円安も外食企業を海外展開に駆り立てる。輸入食材の仕入れコストが上昇しても日本での価格転嫁は容易ではなく、収益が圧迫される。海外に店舗を展開することで為替リスクを軽減できるだけでなく、インフレに耐性がある市場は値上げを進めやすい。 地理的に近く、食文化も(欧米などよりは)親和性があり、経済が急成長を続け、14億人の人口を抱える中国は魅力的な市場だが、実は成功事例は驚くほど少ない。進出時はどの企業も「5年で100店舗」「200店舗」と目標を宣言するが、3ケタに到達したのは吉野家、サイゼリヤ、すき家など数えるほどしかない。 なお、日本食の中国での成功例として、豚骨ラーメンの「味千ラーメン」の名前が挙がることが多い。ただ、日本で味千を展開する重光産業からライセンスを受けた香港企業が実質的に経営を担っているため、中国では「中国系企業」と見なされている。 日本の外食企業で最も早く中国に進出したのは、1992年に北京に出店した吉野家だ。欧米で最も早かったKFC(ケンタッキーフライドチキン、1987年進出)、マクドナルド(1990年)には遅れたが、日本企業の中では断トツで早い。 吉野家は外食市場黎明期の中国で、「デートや家族のちょっと贅沢な食事に使うおしゃれな飲食店」として発展していった。日本のように牛丼専門店ではなく、今でも火鍋、カレー、デザートなど多様なメニューを展開する。 2000年代に入ると、2001年12月にWTOに加盟した中国市場の成長性が注目され、外食大手が続々と進出した。 ぱっと思い浮かぶだけでリンガーハット(2002年)、カレーハウスCoCo壱番屋(2004年)、ワタミ(2005年)、ペッパーランチ(2005年)、がってん寿司(2008年)、松屋(2009年)、ロイヤルホスト(2010年)、はなまるうどん(2011年)、大戸屋(2012年)、丸亀製麺(同)などがある。 2000年代に進出した企業の多くは「富裕層」をターゲットに、現地の外食産業の高価格帯にポジショニングした。 だが2010年代に入ると現地の商習慣や消費者を熟知した中国企業がチェーン展開のノウハウを身に着けて急激に成長し、海外チェーンは押され気味になった。アメリカ・マクドナルドと、KFC、ピザハットなどを展開するアメリカのヤム・ブランズの2社は、2016年から2017年にかけて業績悪化に直面し、中国事業を切り離し現地企業に売却した。 20世紀から足場を築いてきたマクドナルド、KFCすらこの状況なので、日本チェーンが苦戦したのは言うまでもない。前述した「日系の成功の象徴」だった味千も低迷が始まった。