野茂英雄より30年以上早かった…黄色人種差別に立ち向かった「日本人初のメジャーリーガー」の名前
■チームメイトの態度が変わったきっかけ 村上が口にした「きついジョーク」とはもちろん、日本人蔑視の差別的発言だった。そして彼は行動に出る。試合前の国旗掲揚が行われているさなか、村上は一人だけ背を向けて座ったままで過ごした。国歌吹奏が終わるとともにチームメイトが「なぜあんなことをしたんだ?」と尋ねてくる。 「口々に、“どうしたんだ、何かあったのか?”と聞かれました。そこで私が事情を説明すると、“それとこれとは別問題だろう”と言われ、“わかった”と答えたことを覚えています。 私のそんな態度を見て、何か思うところがあったのでしょう。“マッシーはよっぽど傷ついているのだな”と理解したのかもしれません。これ以降、私に対してあからさまに侮蔑的な態度を取る選手はいなくなりました」 ■スパナを投げられても決してひるまなかった あるいは、こんな出来事もあった。村上本人が「スパナ騒動」と語る一件だ。 遠征の際にはバス移動を強いられた。早くて2時間、ときには8時間かかることもあった。村上は常に持参していた8ミリカメラで車窓をよぎるアメリカの田舎町の風景を記録していたため、常に前方の席に座っていた。 「確か、8時間かけてリノに移動するときのことだったと思います。つい、ウトウトしていたら頭に何かコツンと当たりました。目が覚めて後ろを振り返ってみても、みんな知らん顔。そんなことが何回か繰り返された後、私は勢いをつけて立ち上がりました……」 村上は後ろを振り返ることなく運転席に行き、そこにあったスパナを手に取った。そして、ゆっくりと振り返って、一人ずつにらみつけながら、「Are you?、Are you?」と聞いて回った。 「……こちらは本当に頭にきているわけです。スパナを握りしめたまま、“お前か、それともお前か?”と聞いて回ると、みんなおびえた顔で、“オレじゃない”と言いました。その数、20人はいたはずです。でも、ここでひるんだり、我慢したりすれば絶対につけこまれるし舐められる。“ここは強気で押し通すしかない”と思っていました」