“フェイクと疑問の塊”の報告書 退任・櫻田氏は実名でなく「F1会長」表記 SOMPO “生々しさ”欠いた調査 ビッグモーター不正めぐり
フェイクと疑問の塊―――。 ビッグモーターの保険金不正請求をめぐるSOMPOグループの調査報告書はそう酷評された。膿を出し切らずに再生できるのか。
■財界トップに名を連ね…辛口の発信をしていたが
「北朝鮮のミサイル」から「育休の促進」「株価」、そして「企業の不祥事」まで…。 経済団体トップの月2回の会見では、おそらく“門外漢”であろうことも含めて、あらゆるテーマの質問が飛んでくる。ある財界人は、団体トップを引退するときに「もうあの会見をやらなくて済むと思うとほっとする」ともらしていた。 26日、SOMPOグループCEOを退任すると発表した櫻田謙悟氏も、2023年春まで経済同友会のトップを務め、歯に衣着せぬ発言を続けていた。無難な返答にとどめずに発信していたその姿勢は評価されていた。 経済同友会の会見で何度か出てきた他社の不祥事についての質問。2019年の関西電力の不祥事の際にはこのように発言していた。 「(関西電力の)監査役も知っていた、取締役会に報告していなかった、という事態はどう考えてもガバナンスが緩かったとしか考えられない」。 カメラの前でこのように苦言を呈したが、4年後、自らがそう指摘される立場になるとは想像していただろうか。なかなか「他山の石」「人のふり見てわがふり直せ」とはいかないものなのだろう。
■生々しさを避け…プロたちが見逃さなかった“違和感”
これまでいくつもの企業の“不祥事対応”を見てきたが、今回のビッグモーターを巡るSOMPOグループの件で他と異なっていたことの一つは「生々しさ」がないことだ。 通常、外部の弁護士らによってつくられる「調査報告書」。ここには、なぜ間違いが起きたのか解明するために、「誰がどんな場面で何を言ったのか」「現場ではどんな隠語が使われていたのか」など具体的なエピソードが出て来る。 しかし今回の調査報告書は違った。そして、その違和感を、プロたちは見逃さなかった。 SOMPOグループの会見前日、金融庁が行政処分を発表しているさなか(※1月25日)、弁護士業界で知らない人は“もぐり”と言われる久保利英明氏らによる会見が開かれた。彼らは、不祥事を解明し再発防止策を提示する「第三者委員会による報告書」を格付け評価する組織(第三者委員会報告書格付け委員会)のメンバーだ。 彼らがSOMPOグループの社外調査委員会による報告書につけた評価は8人中4人が『最低評価のD』。残る4人は「内容が著しく劣り、評価に値しない報告書」としてF(不合格)をつけた。 その理由は、「具体的なやり取りが明らかにされていない。最も強く要求されるグループガバナンスの実態が究明されていない」「フェイクと疑問の塊」(久保利英明弁護士)、「社外調査委員会は損保ジャパンの白川社長とSOMPOホールディングスの櫻田グループCEOにヒアリングしたのか?ヒアリングでなんと答えたのか?報告書には何も書かれていない。実質のある調査は行われなかったのだろうという憶測すら招く」(竹内朗弁護士)などだ。 さらに、損害保険会社4社の名前も明記されず、「甲」「乙」「丙」「丁」と書かれ、櫻田氏についてまで、「F1会長」、白川氏は「A1社長」と記載されていることを「わかりやすくするべき」「偉い人や社会的責任がある人は原則実名であるべきではないか」(塚原政秀氏)と指摘。 「調査報告書が代表訴訟などに使われないように、一生懸命気を配って秘密主義のこういう報告書にしたのかとも思えてくる」と戒める声も上がった。 「第三者委員会の報告書は会社側が『自浄能力』を発揮するためのものであるべき、と追及したのは八田進二氏(青山学院大学名誉教授)だ。会社に対するコンサルのようなものであるべきにもかかわらず、今回の調査は原因分析などについて十分な事実認定がなされていない、などとして、SOMPOホールディングスの役割と責任について何ら検証されていないと指摘した。