カサビアンが語る予測不可能な変化、「ロック+ダンス」の追求と揺るぎない自信
エンターテイナーとしての矜持
─カサビアンの「Club Foot」が世に出てから20年も経ちましたが、このバンドが今も新作で全英No.1を狙えそうなポジションにいるのは本当に凄いことです。その間フレッシュでい続けられた秘訣は、変化を恐れず変わり続けたこと、ロック・バンドらしいサウンドに執着しない勇気を持っていたことにあると思うのですが。あなたの見解は? サージ:その通りじゃないかな。同じサウンドの作品を繰り返し作ることだってできる。それでうまくやっているバンドはたくさんいるさ。ファンも離れないしね。「変わってしまうのは好きじゃない。ずっとこのままでいてほしい」というファンは多い。ある程度まではそれでもいいんだろうけど、いずれ世間も「あのバンドはあれしかやらないな」ってなるわけで、同じファンにだけ発信しているうちに、徐々に消えていくことになる。その一方で、変化することでファンを失うことを恐れず、表現者として自分がワクワクするような作品に毎回挑むことだってできる。人から「なんでこんな作品を作るんだ? 昔の方がよかった」と言われることを恐れないことさ。そういう人に迎合する姿勢は、自分にとってはつまらな過ぎるし、むしろそれに反発してしまう。人に「こういう作品を作ってほしい」と言われれば言われるほど、「ファック・ユー、自分が作りたい作品を作るんだ」って気持ちになるよ。 僕はこの世界に存在するあらゆるものに興味があるし、知りたいと思うから、同じものを繰り返し作るなんて無理だ。常に変わらずにはいられない。自分が好きなアーティストで今も最前線で活躍している人たちも、みんなそうしてきた。アーティストとして優れていて世界に関心があるなら、新しいものに出会えば世界観も変わるし、人としても成長するから、自ずとまた別のものに興味を持つようになる。そこにリスクがあるのもわかってるよ。みんなが自分のやろうとしていることを理解してくれるわけじゃない。でも、それこそがバンドとして生き残る鍵だと、ずっと思ってやってきた。自分達にとって一番の褒め言葉は、「次の作品がどんなサウンドになるか予想もつかない」だ。ほとんどのバンドが大体の予想はつく。それでファンも安心するだろう。でもそれじゃ、つまらないよね。個人的にも、「なんだこれは?」「ついていくのがやっとだ」と思わせてくれるアーティストに惹かれるんだ。 ─今回のアルバムにインスピレーションを与えたアーティストがいたら、思いつくままに挙げてもらえますか? サージ:美意識や作品への向き合い方という意味で言えば、タイラー・ザ・クリエイターがそうだね。彼の姿勢が好き。彼もジャンルという概念を曲げたり、操ったりするよね。あとは、「Darkest Lullaby」みたいな曲だったら、70年代初期のベーブ・ルース、ヴァニラ・ファッジといったバンド。タランティーノ監督が映画の中でよく引き合いに出すけど、その気持ちがよくわかる。当時のああいうサウンド、あの感じは凄く魅力的だよね。 ―ライブについても聞かせてください。あなたはリード・ボーカルも務めるようになって、ステージ上を縦横無尽に動きますよね。動いて、歌って、客を煽って、ギターも弾く様子を見ていると、随分仕事が増えたなと心配にもなるんですが。体力的にキツくはないですか? サージ:かなり変わったのは確かだよ。不思議なのは、かつてはキース・リチャーズになるべき道が敷かれていたはずなのに、気付いたらミック・ジャガーになっていた(笑)。なぜそうなったのかはわからない。それを目指していたわけでもないし、こんなことになるなんて思ってもみなかった。でも、こうなってしまった以上、やるしかない。性格的に、自分は問題を解決するのに長けている。スタジオでもそう。だから「これをやるなら、こうするしかない」と決めたんだ。一つには、自分が書いた曲と歌詞だから、観る側にとっても書いた本人が歌っているのを観るのは面白いはずだと思った。自分で書いた言葉だから、すべて元々自分の中に流れているものだ。だからステージに出たら、芸術の本来あるべき姿として、命懸けで毎晩全身全霊で歌うだろう。 観に来てくれた人には楽しんでもらいたい。凄く単純な話で、お客さんは楽しませてもらうためにお金を払ってくるわけだ。彼らはバンドがカッコつける姿を観に来てるわけじゃない。楽しみたくて来てるんだから、だったらこっちとしても、お客さんが思わず立ち上がって、ぶっ飛ぶくらい思い切り楽しんでもらうためには何だってやる。それは例えば、巨大なモッシュピットが生まれるような迫力ある演奏をするのでもいいし、逆に凄く親密な空間を作って、観客と一体化して今まで感じたことのない気持ちにさせるとか、いろいろできるよね。その責任の重さは感じている。観客には、何か特別な体験をしたと思って帰ってもらいたいから。客席の熱気を感じ取って、日によって何をすべきかが自分でもわかる。そこがライブの醍醐味だと思っているし、自分でも知らなかった自分の違う一面を知ることができた。それを知らないまま人生を全うしていたかもしれないけど、今となっては心から楽しんでやっているよ。ライブでは毎回学びもある。ライブが終わる時には、フロントマンとして胸を張って、「自分はそこら辺のシンガーソングライターとは違う。エンターテイナーだ」と思えるんだ。 --- カサビアン 『Happenings』 2024年7月5日(金)配信中 2024年7月10日(水)国内盤リリース 初回仕様限定ステッカーシート封入 ボーナストラック1曲収録 歌詞・対訳・解説付き カサビアン来日公演 2024年10⽉7⽇(⽉)・8日(火) 東京・Zepp Haneda 2024年10⽉10⽇(木) 大阪・Zepp Bayside
Masatoshi Arano