カサビアンが語る予測不可能な変化、「ロック+ダンス」の追求と揺るぎない自信
ロック+ダンス・ミュージックの追求
─アルバムの構成も見事ですが、曲順を決めるのにかなり悩んだのでは? 観客をクレイジーにさせそうなロックンロール、「How Far Will You Go」のすぐ後に、メロウなディスコ・ロックの「Coming Back To Me Good」が来たりと、決して平坦なトーンにはしていませんよね。 サージ:何度も聴き返して、分析を重ねた。悩みはしなかったけど、聴き手をうまく操っている。例えがいつも映画の話になってしまうんだけど、きっと言葉で説明するよりも、物事を映像で考えるタチだからなんだと思う。傑作映画の中で、音楽がかかった瞬間に心を持っていかれる場面があるよね? ライブのセットリストでも、2~3曲にわたって完璧な盛り上がりを作っていく感じ。山場に向けて、いろいろお膳立てをする。曲間やタイミングも全部計算されているよ。しかも、比較的早いペースで展開するから、曲を畳み掛けるようにオンエアするラジオ局みたいな感覚にもなる。その辺を考えるのも凄く楽しいね。 ─「Hell Of It」はいかにもあなたらしい曲で、ヒップホップにファンク、アフロビートっぽいリズムが入ってきたり、ビートの展開が凝っていますね。 サージ:このアルバムで一番好きな曲かも。次回作でもっと掘り下げるテーマになるかもしれない。ソングライターとして、凄く自分らしい曲だと思うよ。良くも悪くも、こういういうことをできるバンドは他にいないだろう。これがどういうジャンルに入るのか自分でもわからないけど、作っていてワクワクする。ジャスティン・ティンバーレイクがソロになったばかりの頃にティンバランドなどと作っていた、2000年代初めのサウンドをイメージしていたんだと思う。N.E.R.D.とかね。あとはパーラメント。60年代のサイケデリック・サウンドが大好きなんだけど、特に曲の中で曲調がガラッと変わるところが本当に好きだった。それを、今風のダンス・ミュージックでやってみた感じだね。 ─サイケデリックといえば、「Bird In A Cage」も1曲の中にさまざまな要素が詰まっていて、新しい解釈のサイケデリック・ソングという印象を受けました。このトラックはどんなイメージで組んでいったんですか? サージ:製作中の音源ファイルの名前は「ナイン・インチ・ネイルズのリフ」だった。最初の歪んだループがトレント・レズナーっぽいと思ったんだ。他にも初期のプリンスのスネア・サウンドだったり、ワウ・ペダルが効いたファンキーなギターがあったりして、そこにビートルズっぽさもある。さらに、2番のヴァースは少しブリトニー・スピアーズ風でもある。ナイン・インチ・ネイルズ、ビートルズ、ブリトニー・スピアーズにプリンスという変わった組み合わせに、サイケデリックが加わった曲だ。僕らしいと言えば僕らしいね。 ─ドラムのサウンドを聴いていると、普通にアコースティックのドラムを録ってそのまま使うことは減ってきていますよね。叩いたフレーズをループしたり、もっと細かく1打ずつサンプリングしたり、敢えてエレクトリックなグルーヴを生み出す実験を曲ごとにいろいろ試していませんか? サージ:そうだね。その生ドラムのサンプリングとエレクトリックをどう組み合わせるかがカサビアンの専売特許というか、サウンドの特徴を生み出している。アコースティックのドラムは、その空気感も含め必ず入っているけど、エレクトロニック・ミュージックから影響を受けている部分が大きいから、いわゆるバンド・サウンドにありがちなドラムにこだわっていない。それは少し退屈にさえ感じるよ。サウンドに生気がないと……機械のほうが生き生きしたものが作れるっていうのもおかしな話なんだけど、たまにバンドの音を聴いて、つまらないと思ってしまうことがあるんだ。だから自分が作る曲ではあまり使わないようにしている。それを必要とする場合もあるのはわかってるさ。フリートウッド・マックのような作品を作るんだったら最高だ。フェラ・クティでもいい。そういう作品を将来作ることになるかもしれないしね。ただ、今作に関しては、自分達の1stアルバムに凄く似ていて、より機械で生み出す音に寄っている。とは言え、イアン(・マシューズ)は最高のドラマーだから、バランスをうまく取っている。そこに、他にはないこのバンドらしさがあるんだと思う。