ノーベル賞受賞の経済学者16人がトランプ再選に警鐘
米国時間6月27日に行われた米大統領選テレビ討論の2日前に、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者16人が、トランプ前大統領の経済政策を批判する書簡を発表した。書簡を作成したのは、2001年のノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のジョゼフ・スティグリッツ教授、2011年の受賞者であるプリンストン大学のクリストファー・シムズ教授、2013年の受賞者であるイェール大学のロバート・シラー教授らだ。 「われわれは多様な経済政策の細部についてそれぞれ異なる見解を持っているが、バイデン氏の経済議題がトランプ氏よりはるかに優れているということに全員が同意する」としている。 また経済学者らは書簡で、「トランプ前大統領は財政的に無責任な予算案でインフレを再点火する恐れがある。複数の無党派研究機関はトランプ前大統領が自身の議題を成功裏に制定すればインフレを高めると予想する」と明らかにしている。 これまでも多くの経済学者らはトランプ前大統領の「輸入品すべてに対する10%の追加関税と中国製品への60%超の追加関税政策」が輸入品の価格上昇を招き、米国の消費者の負担になると警告してきた。また、移民規制強化策は賃金上昇を呼び起こしインフレ圧力も増加するだろうとも指摘してきた。 書簡を主導したスティグリッツ米コロンビア大教授は、「トランプ氏が2期目を務めることになれば世界における米国の経済的地位が低下し、国内経済が不安定化するだろう」とも指摘している。 大統領選挙TV討論会後には、トランプ前大統領再選との見方がそれ以前よりも強まっている。トランプ前大統領が公約に掲げる追加関税は、国内物価を押し上げ、米国経済に打撃を与えるとともに、世界貿易を委縮させる恐れがある。また、同氏が主張する減税策の継続は、財政環境の改善の妨げとなり、長期金利上昇やドル安を生じさせる可能性がある。また、同氏が検討する米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策決定への大統領の影響力強化は、中央銀行の独立性を脅かし、通貨の信認を低下させる可能性がある。 以上の点から、トランプ前大統領が再選され、公約に従って経済政策が実施されれば、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者16人が懸念するように、米国経済、世界経済に打撃となり、また米国金融市場では、中期的にドル安、債券安、株安のトリプル安要因になることが見込まれる。 (参考資料) 「ノーベル賞受賞の経済学者16人が共同書簡…「トランプ氏のカムバックは経済に打撃」」、2024年6月26日、中央日報 「トランプ氏の経済政策に警告、ノーベル賞受賞者「インフレ再燃」」、2024年6月25日、ロイター通信ニュース 「ノーベル賞学者16人、トランプ氏再選で「インフレ再燃」」、2024年6月27日、日本経済新聞電子版 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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