「不思議なスポーツと思われないように」フィギュアスケートという採点競技を放送するうえでの不安と、成功へのカギ
文=松原孝臣 撮影=積紫乃 ■ 理解してもらうためにどのように伝えるか 2004年3月、近藤憲彦は世界フィギュアスケート選手権の放送を迎えようとしていた。 【写真】2007年3月25日、世界選手権、エキシビジョンで演技する安藤美姫 それは不安の中でのスタートだった。 フィギュアスケートをよく知るコアなファンに加えて、あまり興味のない人々に観てもらうにはまずは競技内容を理解してもらわなければならない。決して知識を持つ人が多いとは言えない。理解してもらうためにどのように伝えるか――。 「いろいろなスポーツを担当してきて、採点競技であることにも懸念はありました。勝ち負けがはっきりしているスポーツとは違い、競技ルールや採点方式が分からないと、視聴者にストレスを与えてチャンネルを変えられてしまうのではないかという心配がありました」 視聴者にフィギュアスケートの魅力と競技ルールを伝えるためにどのように放送するか。それはスタート時の原点であり、現在まで続く原点でもある。 「観ていて分かりにくい、不思議なスポーツだと思われないよう努力を続けてきました」 まずは選手の名前と顔を知ってもらい、感情移入して演技を見てもらうための選手個々の情報を伝えつつ、得点がどのようにつくのか実況で丁寧に説明することに努めたという。 1つ、「追い風」となったのは採点方式の改正だ。2004-2005シーズン、より主観性を排することを目的に、現行の枠組みに正式に変更された。 「それまでの採点方式は理解することが簡単ではありませんでしたが、現行の形に変わって、ジャンプは何点というように採点方式が分かりやすくなったと思います」 理解してもらえるように、という姿勢は今日まで受け継がれている。 「今では画面の左上に点数を出していますがそれも1つです。最初は文字情報を画面に乗せるとアスリートの美しい映像の一部を消してしまうので抵抗感はありました。しかし、分かり難いな、と感じるとそれだけで観続ける意欲がなくなってしまうので、視聴者に丁寧で分かりやすい映像作りと情報提供に気を配ることにしています」