香川、本田、岡崎のいないピッチが物語るハリルJ世代交代の鐘
プレミアリーグ王者レスターで新加入のイスラム・スリマニにポジションを奪われている岡崎は、シュートを1本も打てないまま同30分にFW浅野拓磨(シュツットガルト)と交代。香川は通算3度目のアジア最終予選で、故障以外では初めて先発メンバーから姿を消した。 代わりに清武をトップ下で起用した意図を、ハリルホジッチ監督はこう説明する。 「シンジ(香川)よりも1日半早く帰国していたので、そこのアドバンテージがあった」 要は時差ぼけや長距離移動による疲労を回復させる時間が清武にはあったわけだが、香川自身も9月以降はドルトムントで2試合、合計46分間しかプレーしていない。ともにドイツ代表に名前を連ねるマリオ・ゲッツェ、アンドレ・シュールレの加入により、完全に押し出されてしまった形だ。 日本代表における3人の合計得点は実に「112」を数える。チームを引っ張ってきた軌跡は誰もが認めるが、一方で本田は自身の現状についてこうも語っている。 「試合勘でいろいろ言われているところは、当然ないわけがない」 代表チームは身心ともに万全のコンディションを整えた選手が、プレーする権利を得られる舞台。実績や肩書が優先されるようなことがあれば、チーム全体の士気にも決して好ましくない影響を及ぼす。 かつて岡田ジャパンの大黒柱だった中村俊輔に真正面から挑戦状を叩きつけ、ワールドカップ・南アフリカ大会を迎えて主役の座を奪ったのが本田だった。挑む側も挑まれる側もベストのプレーを演じ合う先に切磋琢磨する状況が生まれ、必然的にチーム力が上向いていく。 実際、1学年上の香川の背中を追い続けてきた清武は、“ビッグ3”が不在の中で生まれた山口の劇的ゴールに大きな付加価値を見いだしている。 「常に3人が引っ張ってきたチームの中で、誰もいなくなったなかで取れた1点というのは、チームを底上げする意味でもすごく大事な1点だったと思う」 清武はワールドカップ・ブラジル大会代表に選出されながら出場機会ゼロに終わり、コロンビア代表に屈してグループリーグ敗退が決まった翌日に酒井宏樹、酒井高徳の両DF、FW齋藤学ら同じく出番なしに終わったチームメイトたちと現地で練習。ロシア大会での捲土重来を誓った。 イラク戦で先制点をあげ、切れ味鋭いドリブルで何度も左サイドから仕掛けたFW原口元気(ヘルタ・ベルリン)はブラジル大会代表そのものから漏れ、日本中がワールドカップ一色に染まった2014年6月に、成長を誓って浦和レッズからドイツへ飛び立った。 清武は26歳、原口は25歳とともに中堅にさしかかっているが、それでも主力の大半が固定され、競争原理が働かなかった日本代表の中で、ようやく挑戦者の資格を得たと言っていい。もちろん、挑まれる側も黙っていない。試合後の取材エリアで香川が静かな口調で言った。 「自分には自分のよさがあるし、キヨ(清武)にはキヨのよさがある。それは監督が判断することだし、いまは結果を残した者が残っていけばいい。自分が必要になったときに、しっかりとピッチで表現できるように準備していきたい」 後に振り返ったとき、2016年10月6日のイラク代表から奪った劇的な勝利とともに、世代交代のゴングが鳴らされたアニバーサリーとして刻まれるかもしれない。 (文責・藤江直人/スポーツライター)