「世帯年収600万円以上」と「300万円未満」子どもの体験格差を示す衝撃データ
日本では7人に1人の子どもが貧困状態にあり、OECD加盟国で最悪の水準だ。これが子どもたちの「体験格差」にも現れている。スポーツや音楽などのクラブ活動、キャンプ、旅行、お祭り、博物館や動物園に行くといった体験がゼロの子どもが、年収300万円未満の低所得家庭では3人に1人もいるという。その実情とは。 ※本稿は、今井悠介『体験格差』(講談社現代新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 楽しい「体験」は 将来にも影響を与える なぜ「体験」が子どもたちにとって重要なのだろうか。言い換えれば、「体験」にはどんな価値があるのだろうか。 まず、「体験」は往々にして楽しいものだ。海は楽しい。動物園は楽しい。サッカーは楽しい。絵を描くのは楽しい。旅行に行くのも楽しい。 もちろん、プールで泳ぐのが楽しくない子どもはいるし、ピアノの練習が楽しくない子どももいる。すべての「体験」が、すべての子どもにとって楽しく感じられるわけではない。だが、それぞれの子どもにとって楽しいと感じられる「体験」が、1つはきっと存在するだろう。 さらに、「体験」の価値はその時々の楽しさだけではない。例えば、「体験」は子どもの社会情動的スキル(非認知能力)にも関係するとされている。つまり、子どもたちへの短期的な影響(楽しさ)だけでなく、かれらの将来に対する長期的な影響もある。 だからこそ、その格差を放置しておけないわけだ。たまたま裕福な家庭に生まれた子どもたちばかりが様々な「体験」の機会を得られ、それによって大人になってからの収入などの格差が再生産されているとすれば、とてもフェアな社会とは言えないだろう。
● やったことがなければ 好きか嫌いかも分からない 沖縄県で長く子ども・若者の貧困問題に取り組み、不登校状態の子どもたちを支援している金城隆一さん(NPO法人ちゅらゆい代表理事)は、様々な困難を抱える子どもたちを連れて北海道へ旅行に行ったときのことを次のように語る。 子どもたちにとって初めての旅行でした。でも、子どもたちは北海道の現地に着いても、沖縄の地元にあるようなアニメショップやゲームセンターなど、普段の生活とまったく同じことをやりたがる。食べ物も全国チェーンの寿司屋に行きたいと言う。 これまで色んなことを体験したことがないから、「北海道に来たらこれをやってみたい」とか、そういう選択肢がそもそも頭に思い浮かばない。貧困とは「選択肢がない」ということです。私は、子どもの貧困問題の中心にあるのが、体験格差だと思っています。 何かを一度もやったことがなければ、それが好きか嫌いかもわからない。何かを一度も食べたことがなければ、それが好きか嫌いかもわからない。どこかに一度も行ったことがなければ、その場所が好きか嫌いかもわからない。 子どもたちにとっての想像力の幅、人間にとっての選択肢の幅は、大なり小なり過去の「体験」の影響を受けている。貧困状態にある子どもたちは、「過去にやってみたことあること」の幅が狭くなりがちだ。そして、そのために「将来にやってみたいと思うこと」の幅も狭まってしまいがちなのだ。