野茂氏を抜くスピード1000奪三振を記録した阪神・藤川球児の哲学とは?
WBCでは、藤川のボールを受け、日本シリーズ、交流戦、オールスターなどでの対戦経験もある評論家の里崎智也氏は、その「火の玉」と評されるストレートを「大砲」と表現した。 「現役時代の対戦は数少なかったけれど、ストレートは到底、振っても当たらないのでフォークを狙っていた。交流戦ではそれで同点タイムリーを打ったこともあるが、ストレートの質はズドンという大砲だった。大砲級のボールを投げるのは、全盛期の松坂大輔、ダルビッシュ有くらい。狙っていても打てないストレートというのは、そう多くはない。藤川は、本当にホップしているように感じた。最速記録を作ったのは、長年リリーフというポジションを守ったことが影響しているのだろう。先発だと三振だけにこだわらずゲームを作る必要があるが、リリーフは三振を求められる。メジャーに行って肘を手術したが、それまで故障もなくリリーフのポジションを長年続けてきたことがスピード記録につながったんだと思う」 野茂英雄氏の三振のほとんどは、伝家の宝刀フォークだったが、藤川のそれはストレートだった。 最速は156キロだが、回転数が多いため、打者の手元で失速せず、浮き上がる感覚になる。しかも、藤川は、1球、1球、打者のタイミングを見ながら、左足の上げ方から体のひねり、ストレートのリリースポイントまで、微妙にタイミングを変えながら投げ込むため、「火の玉」は、打者からすると「7色の火の玉」に変わるという。 以前、藤川に、こんなピッチング哲学を聞いたことがある。 「やれるだけの努力は僕だけでなくみんながやっていること。じゃあ、なぜ三振を取れるんだ? それは周りが応援してくれているからじゃないか。運じゃないのか、と考える。抑えたら自分ひとりの力じゃない。しかし打たれたら、それは運じゃない」 だから謙虚に奢らずに。 ストレートは「火の玉」でなくなったとしても藤川の三振道は続くのである。