質の高い舞台、高校生に 中信合同芸術鑑賞連絡会50年 長野県中信地区
長野県中信地区の高校生に優れた舞台芸術の鑑賞機会を提供する「中信地区高等学校合同芸術鑑賞連絡会」が、昭和50(1975)年の発足から50年の節目を迎えた。大北地域から木曽郡まで、地理的にも規模的にも異なる条件下にある松本平一円の高校の生徒たちが、毎年等しく"本物"の演劇や音楽に触れ、情操を育んできた。全国にも例を見ない取り組みの背景には、次代を思う教諭たちの情熱がある。 本年度、来年度と記念事業が予定され、今年は6月、演劇「湯を沸かすほどの熱い愛」を中心に、松本、塩尻両市や木曽町で15ステージを上演。22校の約1万1000人が鑑賞した。 6月20日は松本市のキッセイ文化ホールで、松本工業高や池田工業高など4校が「湯を沸かす―」を鑑賞。作品は連絡会の教諭たちが数年前から、創作団体との協議を重ねて制作された舞台だ。日本を代表する演劇集団キャラメルボックスの役者らが家族や学校、障害、病、死などのテーマをちりばめた人間ドラマを展開する。臨場感あふれる舞台美術、迫真の演技…。生徒たちは引き込まれ、松本工業高1年の赤羽光さん(16)は「生の舞台は迫力があって面白い。機会があればまた見たい」と話していた。 連絡会は中信地区の高校教諭で運営され、22校が加盟する。同会30年誌によれば、戦後の混乱期を経て民主的な文化創造が加速する中、生徒に優れた舞台芸術を―との機運が教師たちの間でも熟成。各校が個別に模索した鑑賞行事を地区合同鑑賞に移行することで、学校の大小を問わず、生徒たちが等しく同額の負担で、質の高い舞台に触れる体制を確立させた。演目の選定や出演側との作品の作り込みにもこだわり、過去の上演作品は演劇、ミュージカル、オペラ、バレエ、歌舞伎、京劇など百数十作品に上る。 全国で同様の取り組みが縮小・解散する中、いまや「中信はずぬけた存在」(連絡会)だ。行政による助成金の減額など課題は少なくないが、40年以上携わる連絡会OBの元教諭・林直哉さん(67)は「デジタルがいかに進もうとも、舞台は人と人とがつくり出す。時間や空間を共有する経験をこれからも高校生に届けられるように」願っている。
市民タイムス