寛一郎主演『シサム』アイヌと日本人との関係性を描いた作品。主人公が救えなかったアイヌの人々への想いを胸にとった行動とは
◆シサムとアイヌ アイヌの人々が和人、即ち日本人のことを呼ぶ言葉が即ちこの映画のタイトルとなる「シサム」だ。 「我々を苦しめるシサムをなぜ手当てし、匿うのだ?」と言う村人も当然出てるが、心優しい村の長や女たちに守られ、孝二郎はだんだん回復、鮭漁にも参加する。このあたりになると、皆さんも相当に「アイヌファン」になってしまうのではないか。私も体が丈夫であったら、こんなふうに大自然の中で暮らしてみたい。実際はすぐに寒さや病にやられ、半年と持たないと思うが、憧れる生活だ。 さて、孝二郎とアイヌ娘との甘い恋愛も始まるのかと思ったが、本作はそんなイージーさを許さなかった。孝二郎はやがて善助と再会するが、その時には和人とアイヌの衝突と交戦が既に激化していた。 そんな中で遂に孝二郎は兄の仇、善助と再会。一度は完全に叩きのめされた善助に孝二郎は勝てるのか? 実は善助には、松前藩を裏切る理由があった。そのうえ更に重い宿命を抱えていることを、孝二郎は知ることになる。 孝二郎は仇討ちの「義」と、人としての「仁」の板挟みに懊悩することになるのだが、最終的に孝二郎がとった行動とは!? 善助との再会以降の展開は息を飲むばかり。実際は映画以上に残虐な殺戮があったろう。心に刺さる様々なシ―ンが続き、最終的にアイヌの苦難の未来を感じさせるが、映画を見終わって一抹のエクスタシーを感じるのは主人公や数人の武士たちの行動の中に、人間らしさを垣間見せてもらえたからだ。
◆見ごたえのある作品 最後、孝二郎は救えなかったアイヌの人々への想いを胸に、ある行動を選び取る。 孝二郎のような日本人がいたから、私たちは今、一抹でもアイヌの人々の生活を知り、その苦難の民族史を想像できるのだ。 その行動とは、文字をもたなかったアイヌの人々の悲哀を書き残すことだ。このストイックな役柄を、まだ若い寛一郎は立派に演じたと思う。 悲劇の女性を演じたサヘル・ローズ、過去を背負った仇の善助を演じた和田正人、松前藩を率いる大川役の緒形直人、和人に対抗するアイヌのリーダーに藤本隆宏など、実力派俳優が脇を固め。見ごたえのある作品になっている。是非劇場へ!
さかもと未明
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