陰謀論者は“歪んだ承認欲求”で社会を分断している
陰謀論は分断を生み出す
ナチスドイツのヨゼフ・ゲッペルス宣伝大臣は「嘘も100回言えば本当になる」と述べたが、これはプロパガンダで用いたデマゴギーも、何回も繰り返して言い続けることで、社会において信じる人が増えれば「社会的な真実」になるというプロパガンダの鉄則を意味している。 つまり、「何がファクトか」が大事なのではなく、「人びとが何をファクトだと信じているか」が大事な社会が「ポスト・トゥルース社会」である。 つまりこのポスト・トゥルース社会においては、ウォルター・リップマンが「疑似環境」と名付けたメディアがつくり出す情報環境において、人びとがファクトだと信じる情報がトゥルースであるか、フェイクであるかは、その流布された量とそれを信じる人間の数によって判断されるということである。 つまり、より多くの人びとの情報環境を制すること、より多くの人びとの脳内環境を制すること、これを中国人民解放軍は新しい認知領域、認知空間という戦場での「制脳権」と名付け、欧米では認知戦、世論戦としての「マインド・ウォーズ」(mind wars)と呼び、注目を高めている。 ポスト・トゥルース社会において、フェイクニュースは生成AIなどのテクノロジーによる言語テクストや映像テクストの製造によって社会により多く蔓延する。その精度の向上により、ディープフェイクに対してその真偽を判断する能力はより高度なメディアリテラシーを必要とするようになる。 GAFAがもたらす「フィルター・バブル」(filter bubble)のなかで、人びとの情報接触はより選択的な認知的不協和を生み出し、フェイクニュースを好む陰謀論者はより大きなコミュニティを形成し、それが「エコー・チェンバー」(echo chamber)となって増幅する。 エコー・チェンバーとは、自分と同じ意見や態度、関心をもった人ばかりが相互にフォローしあってネット・コミュニティを形成し、自分がメッセージを発信しても、その自分の意見に対して共鳴する賛成意見ばかりが返ってくるようになる状態のことを指している。 イーライ・パリサーやキャス・サンスティーンらが指摘してきたように、インターネット上に発生するエコー・チェンバーのような「閉じたネットワーク」が人間関係の蛸壺化をもたらし、それが社会に分断をもたらす。 インターネットは開かれた社会ではなく、むしろ「閉じたネットワーク」を社会にもたらし、その閉じたネットワークを形成する価値観同士が対立しあって、社会を分断するのである。