なぜトイプードルはレトリバーより長生きか…同じ種なら小さい方が長寿命、ヒトでも?「サイズと老化」の先端研究
■ 老化とサイズのトレードオフ すでに、大型犬種については老化マーカー(個体の老化を評価できる生体分子)についての広範な研究が行われているものの、決定的な因子は見つかっていない。小型犬種については、さらに研究が少なく、まだほとんど知られていない。そこで伊藤氏は、小型犬のトイプードルを対象に、大型犬種や他の生物種で検討された老化バイオマーカーとの関連性を評価した。 「年齢と血漿(けっしょう)タンパク質濃度の関係性をトイプードルで評価したところ、加齢と血漿タンパク質濃度の上昇に有意な相関が観察されました。この関係性は、大型犬のレトリバーでも有意とまでは言えないものの同様の傾向が認められました。ただ、血漿タンパク質の増加はトイプードルにおいて、木の年輪のような役割を示唆しているとは言えそうですが、長生きになるかを当てられるような老化マーカーといえるレベルにはまだ至っていません。さらなる詳細の解析を進めています」 イヌが老化研究の対象とされる理由は、イヌが、同一の種の中で最もサイズに幅がある哺乳類だからだ。たとえば、チワワの平均体重は2kg程度だが、マスチフは100kgを超える個体も多くいる。極端なサイズの差から見えてくるのが、サイズと寿命の間にみられる逆相関関係である。大型犬のレトリバーと小型犬のトイプードルなどを比較すると、明らかにサイズの大きいものほど個体寿命が短くなるのだ。 「サイズと寿命の逆相関はイヌに限らず、生物全般に見られます。すなわち同一種の中では、サイズの大きなものほど寿命が短くなる傾向がある。マウスも馬も、サイズの小さいほうが平均寿命は長いのです」 サイズと寿命に逆相関(トレードオフ)の関係がある、と言われれば当然、ヒトではどうなのか、という疑問が湧いてくる。大きな人ほど短命? はたしてそんな傾向はあるのだろうか。 伊藤氏は「巨人症と診断される方は平均寿命が10歳ほど短くなります。逆に10cmくらい背が低くなると1歳程度長生きになるとする観察研究は先進国を中心に複数ありますが、それだけで結論を出すには至りません。ただ可能性は否定できない、ぐらいは言えるでしょう。ヒトは犬ほど、サイズの個人差は極端ではないのです」と答えた。