キンタロー。予想外の義母同居育児──亡き母と愛娘つなぐ、24年越しの“おねだり”
予想外の義母同居育児
こうして、ようやく夫婦の元へやって来たわが子。 「夜泣きも少ないし、オッパイあげたらすぐ寝てくれるし。私もたっぷり寝かせてもらってて。本当に良い子!」 といたって順調のようだ。 何よりキンタローには、心強い味方がいた。 ……義母である。 「最初、3月いっぱい手伝ってくださるってことだったんですけど、コロナのせいで、お義母さん佐賀に戻れなくなって……」と成り行きで延長となった姑との共同生活。母上には気の毒だが、新米ママにとっては幸運だった。 「うちネコ飼ってるんですけど、ペットの毛が赤ちゃんに良くないって、お義母さん、クイックルワイパーやってくれてて……」 というこまやかな気遣いに始まり、 「私が目覚めたら、もう朝ご飯作ってらして。後片付けも全部。“ホウレン草のごま和え”とか、“きんぴらごぼう”とか、“肉じゃが”とか、体に良いお料理を用意してくださって。『キャベツってこんなに細く切れるんだ!』とか、『ホウレン草は1回ゆでるんだ!』とか」 とその完璧な仕事ぶりは枚挙にいとまがない。 「私は(食材を)ブチ込んじゃう(だけな)んで……」と落ち込んでも、「徐々にやってね!」とどこまでも優しい義母。 キンタローが、「もう(私とは)時の流れが違う!」と“相対性理論を発見したときのアインシュタイン”のような口ぶりで、崇め奉るのもうなずける。 「もしかしたらお義母さんの言葉の繊細な部分、読み取れてなかったらどうしよう」とここでもお得意の考え過ぎを披露することは忘れぬが、「毎日ご飯作ってると、だんだんレパートリーに困ってくるわけですよ、“主婦の方”は!」という当事者意識のかけらもない軽口に、むしろ心の底から思う存分“甘えることができている”様子がうかがえ、筆者は安堵した。
思い出す亡き母への後悔
何しろ、キンタローにとって義母は、十数年ぶりに、「おかあさん!」と気兼ねなく呼べる存在。彼女の母は2007年に急死している。 義母との暮らしをキッカケに、 「あー、そういえばお母さん、ホウレン草下ゆでしてたなとか、ゴボウを何か水に漬けてたなとか。あれ、どうやるか聞いとけば良かったな……」 と亡き母を思い出すことが増えたが、心残りも多い。 「自分が母親になって、子育てってやっぱり大変だなと。私も夜泣きしただろうし、お母さんも自分の時間を私たち姉妹に費やしてくれていたんだろうなって」とあらためて親のありがたみを噛みしめる。 「とくに私は、あれ買って!これ買って!がひどい子で。普通、強く駄目って言われたら諦めるんでしょうけど。とにかく性質が悪くて、お母さんに『わがまま娘!』とかいつも言われてた」 なかでも、「真っ先に母に謝りたい!」のは中学2年生のときのおねだり。「何か夢を感じたんですよ!」と心奪われたのはオルゴールである。 「陶器の置物っぽい、ネズミたちがティーパーティーしてるやつで……」 ちなみに、お値段は2万円で、「さすがに買ってもらえなかったんですけど、私怒っちゃって。2日くらい口きかなかった。そしたらお母さんすごく悲しんで。本当に悪いことしたなと思って」とうなだれた。 最後に子供の将来について、「やっぱりダンスはさせたいですね」と語ってくれたキンタロー。 「私の持論では、バレエ。バレエさえ習わせておけば、いざ子どもが『お母さん、私ダンスやりたい!』ってなったときに、オールマイティーなんです!」と芸人になる前の、ダンス講師時代の血が騒ぐのか熱弁が止まらない。 ちなみに、夫の希望はプロゴルファーだ。いずれにせよ、母のDNAを色濃く受け継ぐ子である。その身体能力は折り紙付き。期待してもいいだろう。 「いつ結婚するんだ?」と常々娘を心配していた父が他界したのが2014年。 その翌年、バージンロードを妹と歩いた。 「私が生まれたのが幸せな家族だったから、自分の手で新しく築けたらなって」との言葉通り、人の輪……幸せな家族を掴み取ったキンタロー。 そのお祝いに、かつて“フライングゲット”し損ねたあのオルゴールにならって、ティーパーティーと洒落込むのはいかがだろう。 主役はもちろん、“ちびキン”ちゃん。 今年生まれの彼女の干支は子年、“ネズミ”である。 24年越しに“あのおねだり”を天国の母が聞き届けてくれた……そんなふうに思うのはいささか感傷的過ぎるかもしれぬが。
--- 山田ルイ53世 本名:山田順三(やまだ・じゅんぞう)。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになる。大検合格を経て、愛媛大学法文学部に入学も、その後中退し上京、芸人の道へ。「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞し話題となる。その他の著書に『ヒキコモリ漂流記完全版』(角川文庫)がある。最新刊は『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。