「放置していたらがんの可能性も」芥川賞作家・平野啓一郎が語る“偶然による運命の分岐点”
つまり、私たちの人生は偶然の積み重ねによってできていて、普通の毎日を過ごせているのはそれだけで幸運ということだろう。 「僕は23歳でデビューしてから、当時80歳前後だった瀬戸内寂聴さんやドナルド・キーンさんといった方々と出会いました。彼らが元気に長生きしてくださったからこそ、20年ほどにわたっていいお付き合いをすることができたんですよね。同じように、皆さんのこの先の人生で起きる偶然の出来事が誰かにいい影響を与えるかもしれませんし、もちろん楽しいこともたくさんあると思います。だから僕は読者の皆さんにも、元気で長生きをしてほしいと心から願っているんです」
最近の平野さん
「仕事中は、一生懸命に考え事をしている時間が結構あるんです。でも、はたから見るとボーッとしているようにしか見えないらしくて、妻に用事を頼まれたり、子どもに“遊ぼう”と誘われたりするんですよね(笑)。“今、仕事中です”ということがひと目でわかる、シールのようなものがあればいいのになぁと思います」 平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)/1975年愛知県生まれ、北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌『新潮』に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、一作ごとに変化する多彩なスタイルで作品を発表し各国で翻訳紹介されている。『葬送』『高瀬川』『決壊』『マチネの終わりに』『ある男』『本心』など著書多数。近著は『富士山』(新潮社)。 取材・文/熊谷あづさ 撮影/廣瀬靖士