戦車やトレーラー運転できる自衛官、バス業界で即戦力候補…セカンドキャリアに生かせる「ウィンウィン」の取り組み
長時間労働の規制強化による「2024年問題」でバスの運転手不足が課題となる中、岩手県内で退官後の自衛官を運転手として確保しようとする試みが始まった。トラックなどの大型免許を持つ自衛官はバス業界にとって「即戦力候補」。自衛官のセカンドキャリアにも生かせる「ウィンウィン」の取り組みに注目が集まっている。(山森慶太) 【表】一目でわかる…業界別の輸送能力の減少幅
盛岡市や県南、沿岸地域などで路線バスを運行する県交通(本社・盛岡市)は8日、滝沢市の陸上自衛隊岩手駐屯地で、就業体験会を開催した。集まったのは退職時期が迫り、再就職先としてバス業界に興味を持つ自衛官31人。岩手だけでなく、秋田の駐屯地からも参加した。
同社の本田一彦会長は冒頭、路線バスの運転手は自衛官と同様に規律が重視されるなどと強調し、「国のために頑張ってこられた皆さんの第二の職場に選んでもらいたい」と呼びかけた。
体験会では、同社の担当者が業務内容や勤務時間のほか、給与水準についても具体的に説明。その後、隊員らは敷地内のコースで約10分間、バスを運転し、普段乗っているトラックとの違いやハンドル操作などを確認した。
自衛隊法施行令では、精強さを保つため、自衛官の定年年齢は原則として55~58歳と、一般企業よりも早く第一線を退く。幹部級を除くほとんどの隊員は、資材の運搬や訓練に向けた隊員輸送などのために大型1種免許を取得しており、トレーラーなどの牽引(けんいん)免許や、戦車を運転するための大型特殊免許を持つ隊員もいる。
体験会に参加した岩手駐屯地の沢田幸治准陸尉(55)は「実際にバスを運転して、前輪の位置などの感覚をつかめた。イメージも湧いた」と前向きに語った。
バス業界からの期待も大きく、本田会長は「コロナ禍で採用活動が思うようにできない中で、2024年問題に直面した。自衛官はバス業界の即戦力になると確信している」と期待を込めた。
運転手5年で2割超減…減便、路線廃止進む
岩手県によると、県内のバスの運転手は2019年の835人から、24年には618人と5年間で2割超の減少となった。背景には長期的な収益の低迷に伴う、待遇の水準の低さや高齢化などが挙げられるという。