倒れた人がいる!スマホに通知 市民がAEDを届け、救う「AED GO」 全国3自治体で導入
心停止で倒れた人がいるとき、救命のカギを握るAED(自動体外式除細動器)。街中には69万台も設置されていますが、AEDの場所がすぐに分からないといった理由で利用率アップには課題があります。そんななか、スマートフォンアプリを使って市民がいちはやくAEDを現場に届けるシステムが、全国3地域で導入されています。(withnews編集部・河原夏季、水野梓) 【画像で解説】AED、使えますか? 救急の現場でまずやること
現場の位置情報やAEDの場所を共有
アプリの名前は「AED GO」。その地域に在住・在勤のボランティアが事前に登録して利用するもので、現在は愛知県尾張旭市・千葉県柏市・奈良市の3自治体で導入されています。 街中などに心停止疑いの人がいると119番通報が入った際、消防指令センターから現場近くにいるボランティアのアプリに「現場からXX mです 駆けつけ可能ですか?」と通知が届きます。 アプリでは、地図上に倒れた人がいる現場までの経路と、近くのAED設置場所が表示されます。 駆けつけ可能な場合は「はい」を選択し、表示されている最寄りのAEDを取りに行き、現場へ届ける仕組みです。 京都大学とソフトウェア開発会社ドーン(神戸市)が共同開発し、日本AED財団とも連携して普及を進めています。 2017年に尾張旭市(人口約8.4万人)で始まり、2018年には柏市(同43.6万人)、2023年には奈良市(同34.8万人)で順次導入されました。現在、尾張旭市で約500人、柏市で約2300人、奈良市で約300人が登録しています。 尾張旭市と柏市では、システムの導入前からコンビニへのAED設置を進めたり、AEDのある救急救命ステーションを設置したりするなど、市民がAEDへアクセスしやすい状況でした。
救急隊よりも「早い到着」に期待
AEDは、心臓がけいれんする「心室細動」の状態になってしまった際、電気ショックによって元の動きに戻すための機器です。心臓が原因で突然心停止となる多くの場合は、心室細動が原因となります。 心臓が止まってしまった場合、電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下するといいます。119番通報をしても、すぐに救急車が来るとは限りません。 総務省消防庁によると、2022年現在、救急車の到着時間は全国平均で10.3分となり、初めて10分を超えました。AED GOの導入で、市民が救急隊よりも早くAEDを持って現場に到着し、救助活動をすることが期待されています。 システムの研究に取り組む日本AED財団専務理事で京都大教授(蘇生科学)の石見拓さんは、「AED GOがあれば、その場にいない人にも気づいてもらうことができる」と話します。 現場に居合わせた人がどこにあるか分からないAEDを探して往復するよりも、アプリの通知に気づいた人がAEDを届けることで時間のロスを減らすことができます。 京都大によると、2018~2023年のAED GOの起動数は計535件。ボランティアが行動を起こした事例は計253件ありました。先行して運用していた尾張旭市と柏市では、2023年までにのべ12人が救急車よりも早く現場に到着したといいます。 そのうち柏市では、倒れた人に電極パッドを貼る処置が1件ありましたが、AEDの解析で「電気ショックは不要」と判断されたため、ショックには至らなかったといいます。 消防庁によると、2022年に、心臓が原因で突然誰かの目の前で心停止になった人は約2万9千人。そのうち、居合わせた人によって胸骨圧迫(心臓マッサージ)などの心肺蘇生を受けたのは59.2%で、AEDを使って電気ショックに至ったのは4.3%にとどまりました。 その場にいた人がAEDを使った場合、倒れた人が1カ月後に社会復帰できる割合は42.6%になり、心肺蘇生をしなかった場合の3.3%を大きく上回ります。AEDが数分以内に使われることで、脳や心臓へのダメージが抑えられ、後遺症なく社会復帰できる可能性が高まるそうです。 石見さんは、「偶然にゆだねるのではなく、AEDの配置も戦略的に行い、届ける仕組みを整えることで病院外での心停止の多くをカバーできる。問題はこういった取り組みが知られていないこと」と指摘します。