<リオ五輪>なぜ日本男子マラソンは低迷を続けるのか。東京五輪へ再建策は
リオ五輪の最終日を飾る男子マラソン。「入賞」を目指した日本勢の戦いは想像以上に厳しかった。5kmを15分31秒という落ち着いた入りも、左アキレス腱痛に苦しんだ北島寿典(安川電機)が、3km手前で遅れる。給水時などにペースが上がったものの、スローな展開は変わらず、中間点の通過は1時間5分55秒だった。ここから徐々にペースが上がると、石川末広(Honda)が苦しくなり、27km過ぎで佐々木悟(旭化成)もトップ集団から引き離された。 日本勢は「ペースの上げ下げがあった」と口にしたが、世界のトップランナーが“本気の走り”を見せたのは30km以降だった。2時間4分33秒のタイムを持つレミ・ベルハヌ(エチオピア)が前に出て先頭集団が一気にばらける。そして、35km過ぎにエリウド・キプチョゲ(ケニア)がアタック。持ち味のスピードで最後まで押し切り、2時間8分44秒で金メダルに輝いた。2位はフェイサ・リレサ(エチオピア)で、3位はゲーリン・ラップ(米国)だった。 日本勢は佐々木が16位で2時間13分57秒、石川は36位、北島は94位という無残な結果に終わった。優勝したキプチョゲは4月のロンドンで世界歴代2位の2時間3分05秒を叩き出している選手。日本勢とは自己ベストで5分以上の開きがあった。 世界のマラソンは高速化が顕著になっている。それをけん引しているのが、スピードのある選手たちだ。今回のメダリストを見ると、キプチョゲは北京五輪5000mで銀メダル、ラップはロンドン五輪1万mで銅メダルを獲得している(リオ五輪1万mでも5位)。ふたりは5000mで12分台、1万mで26分40秒台の自己ベストを持っているのだ。5000mの自己ベストを比較すると、日本勢(マラソン代表は石川の13分42秒が最高)とは40~50秒もの大差がついている。 近年の世界大会は、スローペースで進んだとしても、どこかで必ず「高速レース」になる。そのときに、日本勢は、5kmで30秒ほどの差を簡単につけられてしまうのだ。スピードでは太刀打ちできなくても、「夏マラソンでは勝負になる」という日本人のポジティブな発想は“幻想”になりつつある。 4年前のロンドン五輪では中本健太郎(安川電機)が5位入賞を果たしているが、メダル争いに絡んだわけではなく、終盤に順位を上げての快挙だった。冷静に考えてほしい。いまの日本は世界のトップと互角に戦えないのは明らかだ。 男子マラソンは2002年に世界記録(2時間5分38秒/ハーリド・ハヌーシ)と日本記録(2時間6分16秒/高岡寿成)が誕生した。その後、世界記録は6度も塗り替えられ、現在は2時間2分57秒(デニス・キメット)だ。反対に日本記録は、一度も更新されていない。それどころか2時間6分台すら誰もマークすることができず、現役最速タイムは今井正人(トヨタ自動車九州)の2時間7分39秒という寂しい状況が続いている。そのせいか、日本実業団連合が『Project EXCEED』をスタートさせて、日本記録の更新に1億円(監督・チームにも5000万円)の報奨金を出すと発表したが、選手にはあまり響いていない印象だ。