「殺すつもりなかった」 9階ベランダから「軟式ボール」落とした男性が「殺人未遂」で緊急逮捕された理由は?
●通常逮捕までは最速でも数時間かかる
繰り返しになりますが、今回の事件において暴行罪を適用した場合、緊急逮捕をすることはできません。 その場で暴行罪の現行犯で逮捕する方法もありますが、ボールを投げてから時間が経過してしまうと現行犯的状況が消失してしまうため、現行犯逮捕もできなくなります。また被害者がケガをしていない以上、傷害罪を適用することもできません。そのため、大阪府警は殺人未遂罪で緊急逮捕する方法を選択したのかもしれません。 たしかに今回の事件において、暴行罪を適用したうえで令状を取って通常逮捕する方法もあったと思います。しかし、令状請求して令状を発付してもらうには最速でも数時間はかかります。 私も警視庁時代に何度も令状請求をやりましたが、被害者や目撃者から事情聴取して参考人供述調書を作成し、現場で実況見分をおこなって実況見分調書を作成し、投げられたボールの写真撮影や報告書も作成しなければなりません。これらの基礎的な証拠に加えて、逮捕状請求書も作り、「一件記録」をそろえて令状請求に至るのですが、ここまでのプロセスで数時間はかかってしまいます。 これに対して緊急逮捕の場合は、とりあえず先に逮捕を先行しておいて、逮捕後に速やかに逮捕状の請求をおこなうやり方です。この場合、事後に逮捕状の請求が却下された場合には直ちに釈放しなければなりません。 今回の事件において、具体的な事実関係や現場の状況は不明ですが、数時間かけて令状請求している間にさらなる犯行がおこなわれる危険があり、そのために急いで身柄を確保する必要があったのかもしれません。 ちなみに部屋から硬式球も見つかったということですが、硬式球であれば、子どもの頭に当たった場合、致命傷になる可能性があります。逮捕に時間をかけている間に硬式球が投げられてしまう危険を考慮して、さらなる犯行を防ぐために緊急逮捕する必要があったのではないかとも思われます。 【取材協力弁護士】 澤井 康生(さわい・やすお)弁護士 警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(2等陸佐、中佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。 事務所名 :秋法律事務所 事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/