「菊池涼介以来の衝撃だった」抜きん出た守備力に打力を加え、レギュラー奪取を狙うカープ4年目矢野雅哉の正念場
人生には分岐点を迎えるときがある。右へ行くのか、左へ行くのかで未来が大きく変わる。プロ野球人生においては1、2度あるかないか。広島の矢野雅哉は今、まさにプロ野球選手としての分岐点に立っている。 【貴重写真】白スーツの衣笠、打席でエグい殺気の前田やノムケン、胴上げされる山本浩二、痛そうな正田、炎のストッパー津田恒美などカープ名選手のレア写真を一気に見る 新井貴浩新監督を迎えた昨季、3年目だった矢野は守備固めと代走としての地位を築き、プロ入り後最多の93試合に出場した。今季は22年以来となる開幕一軍入り。昨季同様、切り札的存在として起用されていたが、4月5日の中日戦に初めてスタメン起用されてからその頻度が増えてきた。 昨秋、侍ジャパンに選出された小園海斗をサードに回して遊撃で先発し、二塁で出場すれば10年連続ゴールデン・グラブ賞の菊池涼介の代役を見事に果たす。“投高打低”の色が濃く、投手力を中心とした守備力がペナントレースの行方を左右しかねないシーズンで、センターラインの一角を担い、リーグ最少3失策の広島守備陣を引き締めている(4月22日時点。データは以下同様)。そして今まさに、レギュラー獲りの好機を迎えている。 「守備でミスしたら終わりだと思っている。それを売りにプロに入れたので、誰にも負けたくない。そこで負けたらアカン、と」
プロ4年目の進化
もともと守備には定評があったが、昨季までは強弱がはっきりしたような勢い任せと強引さが目立つ場面もあり、93試合で6失策を記録した。今季は打球への入り方、捕球から送球までに、落ち着きや滑らかさがあるように感じられる。出場15試合で失策はいまだゼロだ。 「相手選手のスイングとか打撃も見えてきて、この打球ならアウトにできるなというのがだいぶ分かってきました。これまで自分に余裕がなかったけど、今は打球が飛んできてからも走者を視界に入れながら守れています」 感性や技術だけではない。試合前から自軍の投手の調子や相手バッターのスイング軌道を確認。試合中にその情報と生の感覚をすり合わせながら、イメージを頭に入れて守っている。 亜大時代から守備力はプロスカウトからも認められていた。3年秋に首位打者となったものの、打撃面には課題を残したことでドラフトでの指名は微妙な立場だった。だが、広島の担当松本有史スカウトは、初めて見たプレーに衝撃を受けたという。 「三遊間の当たりをダイビングキャッチしたと思ったら一塁に矢のような球を投げた。あんな選手いたかなと思ったら、入学を控えた高3の矢野だった。守備に関しては、キク(菊池)以来の衝撃だった」 大学入学前に10年連続ゴールデングラブ賞の名手を見いだした敏腕スカウトを唸らせた。ドラフト前の会議では打撃の非力さを懸念されながらも、その可能性を認められた。 飛び抜けた一芸を磨きつつ、走力でも首脳陣の信頼を高めていった。新井体制となった昨季、代走としての起用が前年の9試合から26試合に増えた。チーム内でも特別足が速いわけではない。本人も自覚しているからこそ、ベンチから相手投手の一挙手一投足から癖や傾向を探る。単純な脚力だけでない総合力で勝負する。現体制の積極的な姿勢を後押しする空気が思い切りの良さにつながっている。 「2年目までは『走ってアウトになったらどうしよう』と思っていたんですけど、新井監督、(藤井彰人)ヘッド、アカさん(赤松真人外野守備・走塁コーチ)もミヨさん(三好匠内野守備・走塁コーチ)も『どんどん行っていいよ』と言ってくれる。アウトになってベンチに戻ってきても『もう1回行けよ』って言ってくれるので、迷いがなくなる。周りのおかげもある」 「守」でプロ入りし、「走」で出場機会を増やした。そして今年は「走攻守」にわたって充実を見せる。 「新井監督から『あれっと思うくらい早くタイミングを取ってみろ』と言われて。真っすぐに泳ぐくらいの感覚。こんなタイミングでも行けるんやというものをつかんでから、バッティングが変わった」 きれいな放物線を描く打撃に憧れたことなどない。育英高時代から2ストライクまでは振らず、球数を投げさせることを考えていた。それが生き抜いていくスタイルだと自負していた。プロでも粘り強い打撃を貫いてきたが、左方向中心の打撃だけでは相手に怖さを与えられない。 春季キャンプ中の新井監督の助言が転機となった。 2次キャンプ2日目のシート打撃で、セットアッパーの島内颯太郎からライトライナーを打ち返したスイングに「このバッティングをしていけば勝負できる」と感じたという。 打撃に力強さが増した。右方向への打球割合は、昨季の.374から.522に急増。記録は凡退でも、進塁打となるケースも見られる。無論、持ち味である粘り強さも失われていない。規定打席未到達ながら、P/PA(打者が1打席にどのくらいの球数を投げさせているかを表す指標)では、リーグトップのヤクルト村上宗隆の4.56を上回る5.00をマークする。
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