心肺停止となったとき蘇生処置を行うかどうか…患者の意思を優先【老親・家族 在宅での看取り方】
【老親・家族 在宅での看取り方】#121 在宅医療を開始するにあたって最も重要な言葉に、ACP(Advance Care Planning)があります。直訳すると「アドバンス=事前の」「ケア=看護」「プランニング=計画」となります。 起きたら冷たくなっていて…母の死を確認したのは高校生の娘だった これは将来の自宅療養に備え医療やケアについて、患者さん側と医療側が話し合いを通じて、患者さんの意思決定を支援するプロセスのことです。 厚生労働省では近年、このACPの普及と啓発を進める中で、愛称を「人生会議」としています。大切なのは、患者さんが人生の最終段階をどう過ごし、どのように生きたいのかということ。それを実現させるための医療や介護のあり方、病気との向き合い方、具体的に受けたいケア、延命治療についてどうするかなどを、患者さんやご家族、医療・介護従事者が事前に話し合い、決めておくというものです。 話し合う内容は具体的かつ多岐にわたっています。「この患者さんの状態では介護保険が利用でき、サービスが使えるから検討したい」「いよいよこの状態になったら離れて住んでいる子供と一緒に住みたい」「最期はどこで迎えたい」「終末期に人工呼吸器や透析をするかどうか」「物を食べられなくなった時に胃ろうをするのか」などです。 中でも我々が一番注意を払うものに、医療側が行うDNARという処置に関する合意があります。これは「Do Not Attempt Resuscitation」といい、直訳すると「ドゥノット=見合わせ」「アテンプト=処置」「レサシテーション=蘇生」。もしも心肺停止となった場合に蘇生処置を行わないことを選択し、そのままお看取りをするというものです。 すでに病気が進んでおり、本人自ら意思を伝えられない場合には、ご家族もしくは成年後見人らの代理人からDNARの要望を出す方法も認められています。 患者さんが意思表示可能で、ご家族と考えが違うときには、患者さんの意思が優先されます。 その場合も患者さん側が判断するに際して、医療関係者から蘇生処置をした場合に予見される不利益などの情報を十分に伝えるべきとされています。 患者さんがDNARを希望していても、いよいよ心肺停止が考えられるとなった際、医師から説明を聞いてご家族側が「やはり蘇生処置をして欲しい」という考えに至った場合には、患者さんの意思を優先しつつ、DNARを取り消すことができます。 患者さんが「蘇生処置は絶対に受けたくない」ということであれば、その意思を確実なものにするため、意思表示がしっかりできる間に、口頭ではなく書面による同意書にサインをしていただく場合もあります。 いずれにしても高齢化人口の増加に伴い、今後とも在宅医療においての対処の仕方に多様性が求められることが予想されます。そのため、ACPの重要性はますます高まっていくと考えられます。 今後とも患者さんやご家族とのコミュニケーションを丁寧に取り、生き方や、患者さんにとって理想の人生を支える診療となるように、いっそう心がけていきたいと考えるのです。 (下山祐人/あけぼの診療所院長)