金融所得課税議論は衆院選で低調 総裁選で「強化」唱えた石破首相もトーンダウン 「格差是正」や「富の再分配」はどうなるの?
衆院選で金融所得課税の議論が低調だ。石破茂首相が9月の自民党総裁選で強化すべきと言及したのを機に注目されたものの、市場の反発からトーンダウン。今回の公約には盛り込まれなかった。ただ「格差是正」「富の再分配」の観点から何度も見直し論が浮上しているだけに、鹿児島県内の市場関係者や投資家は選挙後の動きを気にしている。 給与所得や事業所得は累進課税のため所得が多くなるほど税率が高くなる。これに対し、株式売却益などの金融所得への税率は所得にかかわらず一部を除き一律20%。金融所得の割合が高い富裕層ほど税負担率が低くなる逆転現象が生じる。所得が1億円を超えるあたりで税負担率が低くなることから「1億円の壁」と呼ばれる。 こうした不公平感をなくそうと金融所得課税は度々見直しの対象になってきた。岸田文雄前首相も2021年の総裁選で強化を訴えたが、株価下落で棚上げとなった。「増税」につながるため選挙では扱いにくいとの声もある。
鹿児島市に支店を持つ九州FG証券(熊本市)は、石破首相が慎重姿勢に転じたことに加え、日本企業の増益傾向が続くとの見通しから、衆院選で金融所得課税が取り上げられること自体は株式市場にとってマイナス材料にはならないとみる。ただ選挙後に議論が再燃した場合は「株式売却が進むリスクや国民の資産形成への機運停滞が懸念される」と指摘する。 県内の個人投資家も関心を寄せる。8年前から投資信託や株式で資産運用する鹿児島市の会社員(30)は「個人的には強化されない方がいい。ただ社会全体として所得の再配分は必要だろう」と肯定的だ。大崎町の男性会社員(36)は「1億円の壁」是正は必要としつつ「一律での引き上げはやめてほしい」。 今年1月、少額投資非課税制度(NISA)の税優遇措置が拡充され、県内でもセミナーが頻繁に開かれるようになった。株式や投資信託で得たもうけに税金がかからず、口座を開設すればスマートフォンで気軽に運用できるとあって、投資が身近になった。
鹿児島市のファイナンシャルプランナー瀬尾由美子さん(68)は、具体案が出ないと分からないとした上で、「(新政権が)見直しを実行するなら、不公平感をなくすため高額な金融所得に対してのみ税率を上げる仕組みになるのでは」。新NISAや個人型確定拠出年金のiDeCo(イデコ)への影響は少ないとして「『貯蓄から投資へ』の流れに水を差すことはしないだろう」と話した。
南日本新聞 | 鹿児島