こんな会社に入りたいか?という疑問点を補う、俳優の演技と監督の演出力『六人の嘘つきな大学生』
入る前からブラックだとわかっている会社
就職活動中という立場上、声をあげるということが、なかなか難しいし、一点集中で、不自然な点に気づけなくなってしまう状況も理解できる。その麻痺感こそが、そもそも何故、その会社に入りたいと思ったかという動機を迷子にさせているのかもしれないが、ここまでくると、ファンタジーというか、人事担当が悪意をもって、人間の行動や心理を実験しているソリッドシチュエーションスリラーだ。 さらに言えば、そんな会社なら見限ってしまえるほど、それぞれのキャラクターが優秀な才能の持主という設定上、入る前からブラックだとわかっている会社に、どうしても入らなければならない理由というのが、そこまで感じられないのも難点であるが、ブラック企業は入社前から社員の思考を支配しているということなのか? メインである、ディスカッションの舞台に行き着くまでの設定自体に少し難があるものの、誰かが落とし入れようとしていて、それが誰なのかを探っていく謎解き要素は、緊迫感がある。そして人間の本質を就職活動という環境のなかで見つけ出すことは困難という着地点と、そこに至る会話劇は、目を見張るものがあった。 俳優たちの見事な演技と、『キサラギ』(2007)や『脳内ポイズンベリー』(2015)などの密室会話劇を数多く手掛けてきた佐藤祐市の、スリリングな演出、そしてそれぞれのキャラクターの個性を活かしたペース配分が、本作をより一層面白くさせている。 ▽ストーリー 誰もが憧れるエンターテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用。最終選考まで勝ち残った6人の就活生に課せられたのは“6人でチームを作り上げ、1か月後のグループディスカッションに臨むこと”だった。全員での内定獲得を夢見て万全の準備で選考を迎えた6人だったが…急な課題の変更が通達される。「勝ち残るのは1人だけ。その1人は皆さんで決めてください」会議室という密室で、共に戦う仲間から1つの席を奪い合うライバルになった6人に追い打ちをかけるかのように6通の怪しい封筒が発見される。その中の1通を開けると……。 【クレジット】 原作:浅倉秋成 「六人の嘘つきな大学生」(角川文庫刊) 監督:佐藤祐市 脚本:矢島弘一 出演:浜辺美波、赤楚衛二、佐野勇斗、山下美月、倉悠貴、西垣匠ほか 配給:東宝 公開日:2024年11月22日(金) (C)2024「六人の嘘つきな大学生」製作委員会
バフィー吉川