止まらない「少子化」、対策をいくら講じても…背景に潜む〈重すぎる社会保障〉の問題【経済学者が解説】
「子育て支援連帯基金」構想の落とし穴
「異次元の少子化対策」の財源として、権丈善一慶應義塾大学教授が提唱する「子育て支援連帯基金」構想が有力となっている。「基金」構想では、年金・医療・介護保険などの公的保険財源から一定額ずつ拠出して、少子化対策の財源とする。 こうした「基金」構想と似た案として、2017年に自民党「2020年以降の経済財政構想小委員会」が提案した「こども保険」がある。社会保険料に0.1~0.5%程度上乗せする「こども保険」を導入することで、所得制限なしで現行の児童手当に一律月額5000円~2万5000円を上乗せして幼児教育・保育の負担軽減や実質無償化を図ろうとするものだった。 通常、社会保険は、何らかの社会的なリスクに対応するものとして設計される。 例えば、年金保険であれば長生きリスク、医療保険であれば病気になるリスク、介護保険であれば要介護状態に陥るリスクだ。どうやら「基金」構想が念頭に置く「リスク」は、このまま少子化が進行すれば社会保障の持続可能性が失われるという「リスク」に対応するもののようだ。 専門家の間では、子育てが社会保険の対象とする「リスク」であるか否かさまざまな議論はあるが、そもそも社会保障は、国民の合意形成に基づいて特定の「リスク」を選択し、それに対応した制度を導入してきた。 例えば、家族が増えるということは家計支出の増加を意味し、そうでない場合に比べて家計が苦しくなることをリスクとみなし、社会で支えるのも十分可能である。したがって、子育てが「リスク」であるかを問うことは、神学論争に陥ってしまい、あまり意味がない。 2020年度現在、社会保障の規模は給付面では132.2兆円、負担面では184.8兆円となっている。「異次元の少子化対策」とそれを支える「基金」構想では、給付も負担もさらに上乗せされることになる。 実は、この「基金」構想には、3つの「落とし穴」がある。 落とし穴1:社会保障の規模の拡大は、負担で見ても給付で見ても、出生率を低下させる 落とし穴2:社会保障負担の拡大は、経済成長率を低下させ、経済成長率の低下は出生率を低下させる 落とし穴3:国民負担率が大きいほど、日本から脱出する海外永住者が増える このように、「異次元の少子化対策」を実行するにしても、その財源を「基金」構想であれなんであれ、新たな負担に求めるのであれば、日本の衰退はおろか亡国への流れは決定的になってしまうだろう。日本を衰退させないためにも、新たな負担ではなく社会保障給付の付け替えや効率化で財源を捻出し、子育て政策を充実すべきだ。 くれぐれも、「異次元の少子化対策」をこれまでの社会保障政策・制度改革の失敗を覆い隠すための方便とさせてはならない。