空飛ぶガソスタに「逆給油」なぜ!? 米軍が成功した“奥の手” 一体なにが変わるのか?
上から下じゃなく「下から上」へ!
アメリカ空軍が2023年12月、ある画期的な空中給油に成功したと発表しました。C-5M「スーパーギャラクシー」大型輸送機とKC-10A「エクステンダー」空中給油機を使って「逆空中給油(リバースエアリフューエリング)」の飛行試験を実施し、見事成功したというのです。 【空中給油シーンも】日の丸付けたKC-46Aを色んなアングルから見る(写真) この試験は、従来の空中給油の概念を逆転させるものです。KC-10が機体後部に備える空中給油用ブームをC-5の「レセプタクル(給油口)」へ挿入して両機をつなげるところまでは一緒ですが、斬新なのはその後で、なんとC-5からKC-10側へ燃料を送り込みました。 アメリカ空軍いわく、これはKC-10に限らず既存のKC-135「ストラトタンカー」や、最新型のKC-46「ペガサス」といった空中給油機でも実施可能なのだとか。しかし、このような逆空中給油は開発時の動作テストを除くと、これまで実際に行われたことはありませんでした。 そのため、今回はじめて実用を目指しての逆空中給油が実施されたことになりますが、この裏側にはアメリカ空軍が抱える深刻な問題を解決する意図があるようです。 そもそも空中給油機の役割は、空の上で航空燃料をほかの航空機に「受け渡す」ことです。燃料を受け取った飛行機やヘリコプターは、航続距離や滞空時間を理論上は無限に伸ばすことができます。 さらに輸送機や戦闘機などは、最大離陸重量という制限の枠内に収めるため、離陸時にあえて燃料を少なくすることもあります。代わりに貨物や武装をより多く搭載して離陸、のちに空中給油を受けることで、見かけ上のペイロードを増やすことも可能です。
アメリカ空軍の即応性を支える屋台骨
また、アメリカ空軍は世界中あらゆる場所へ展開する能力を重要視しており、場合によってはその能力に「即時」という制約が課せられることもあります。たとえば1990年の湾岸戦争では、24機のF-15C「イーグル」戦闘機をわずか15時間でアメリカ本土からサウジアラビアへ飛行させ、翌日には任務に投入しています。このF-15の即時展開飛行を支えたのは数十機の空中給油機でした。 このように、アメリカ空軍にとって空中給油機はいくらあっても困ることのない存在であると言えるでしょう。その保有機数たるやKC-135が377機、KC-10は20機、KC-46 では72機、そしてプロペラ機であるMC-130は57機であり、これら4機種を合計すると526機という大艦隊にもなります。 また空軍だけでなく、アメリカ海軍や海兵隊も空中給油機を保有しているため、それらまで含めるとアメリカ軍全体では実に606機にも達します。この数はアメリカを除いた全世界の空中給油機の合計数を3倍にしてようやく匹敵するという凄まじい量です。 空中給油機は、まさにアメリカ空軍の屋台骨とも言える存在ですが、翻ると自機の燃料不足と常に戦わなければならないという宿命的な欠点も持ち合わせています。他機に燃料を分け与えるということは、自身の作戦時間や帰還するための燃料を代償として支払い続けていることを意味し、搭乗員の安全にも直結しかねないリスクの高い作戦とも言えるでしょう。