【毎日書評】10年後になくなる仕事、生き残る仕事…どんな人なら必要とされるのか?
『10年後のハローワーク これからなくなる仕事、伸びる仕事、なくなっても残る人』(川村秀憲 著、アスコム)の著者は人工知能研究者。北海道大学大学院情報科学研究院教授、博士(工学)として長年にわたり、ディープラーニング、ニューラルネットワークなど、人工知能(AI)の研究を続けているのだそうです。 そのような立場から、2023年はAIにとって大きな、そして象徴的な転換点になったと感じているのだとか。ChatGPTに代表される生成AIの急速な浸透に明らかなとおり、「AIになにができるか」という実用性が、世界中の人々にわかりやすいかたちで姿を現したということです。 しかしAIが大きな変化をもたらした一方、日本には少子高齢化の問題もが押し寄せています。将来的にAIの進歩と発展が人間の仕事を奪うだろうといわれていますが、人材不足がより顕著になっていく今後の日本ではこの先、否応なしにAIに置き換えなければならない仕事が増えていくだろうと予測されるわけです。 では、実際に10年後にはどんな仕事がなくなり、どんな仕事が生き残るのでしょうか? そして、どんな仕事が生まれてくるのでしょうか? この問いに対して著者は、「仕事は『意思決定』と『作業』に分解され、このうち『作業』に関しては、相当部分がAIに取って代わられる」と答えています。 違う言葉で言い換えるならば、 「自分で何をするか決める仕事」は残り、 「人から言われてやる仕事」は AIに取って代わられる とも言えると思います。(「プロローグ」より) つまりはどんな業界、領域であれ、「自分で決めている人」になる必要があるということ。そうなるために考えるべき2つの考え方を、第3章「10年後も必要とされる人になる思考の深め方」のなかから抜き出してみましょう。
「若いころの苦労は買え」といわれても買うな
AIの普及は、人の流れも変えていくだろうと著者は予測しています。具体的には、若い人たちの「下積み時代」は不要になり、または維持できなくなるというのです。 高度成長期以降の社会は、新卒の一括大量採用と、年功序列での終身雇用制でした。そんななか新入社員は最初の数年間、即戦力ではなく、将来の戦力を見据えた「教育」を受けながら給料を得ていたわけです。 しかしAIの普及に伴ってアシスタントは不要になり、必要なのは決定をする人だけという状況に。AIを操る少数のスタッフ以外はこの先採用しなくてもよくなったとしたら、かつての「下積み時代」もまた不要になっていくことでしょう。 採用において問われるのは、おもに支払う報酬と得られる利益のバランスとなります。つまり「何ができるのか」だけがテーマになるため、企業において「教育を受ける/受けさせる」必要がなくなるわけです。(115ページより) 今後はすべての「下積み時代」がなくなり、その先の年功序列、終身雇用制も成立しなくなるということ。そのため、よほどの例外を除けばわざわざ“まっさらな新入社員”を「採用」するリスクを負う必要もなくなというのです。 企業は、その分の予算を研究に投資したり、小さな企業の事業を経営者ごと買収するような動きを強めるかもしれません。ただし著者はそれを、ポジティブにとらえるべきだと述べています。 かつての日本企業では、「若いころの苦労は勝手でもせよ」「三日・三月・三年を乗り切れ」ということばが声高に語られてきました。しかし、いまの時代においてそれらは「下積み時代」を正当化するためのスローガンとも受け取れるのです。 これからはもう「下積み時代」を経験することはなくなり、「下積み時代」に縛られることもありません。誰も知らないことを学び、誰にもできない価値を生める人が、高い対価、高い年棒で評価されるだけになります。(117ページより) こうした考え方に基づいて備えをしておくことが、10年後の自分の居場所を確保することにつながるということ。(114ページより)