遊んでいない人間に、売れる商品は作れない…本田宗一郎が「芸者の話は仕事の話より大事」と語った意味
■「数字ばかりおっかけていないんで、人を見るんだぞ」 「仕事につながるから遊べ」「仕事のために飲みに行け」と本田はいいたいわけではない。遊びの効用を考えた時点で遊びは遊びではなくなる。仕事になってしまう。遊びが仕事に活きると考えたらいけない。目的を考えずに遊びに夢中にならなければいけない。それが結果的に仕事のアイデアにつながったり、経験を重ねたことが仕事の役に立ったりすることもあるのだ。 「そりゃ年をとってからは「遊びの効用」なんてことを口にするようになりましたが、それはこの二、三年であって、若い時は要するに遊びたいから遊んだんです。理屈なんかありゃしない。遊ぶのに理屈をつけるのは卑怯だな。遊びたいから遊びたい。」 遊びたいから遊ぶ。遊べば人間を知れる。人間が社会や経済を回しているんだから、人間を知ることは実は何をするにしても不可欠だ。本田の教えはいたってシンプルだ。 先行き不透明な時代は守りに入りがちだ。企業も二番煎じの商品や過去データを重視した商品などをこぞって投入する傾向にある。だが、そうした時代は今までの延長戦の発想は通用しにくい。本田は「市場ではなく人を見ろ」と常に言い続けた。「人間」を知らない技術屋の増加に警鐘を鳴らした。 最近の自動車業界の不正は企業の極端な生産性の追求が現場を圧迫していたことが原因のひとつだろう。本田ならばこう説くはずだ。「数字ばかりおっかけていないんで、人を見るんだぞ」。 参考文献 本田宗一郎『俺の考え』(新潮文庫) 本田宗一郎『夢を力に』(日経ビジネス文庫) 伊丹敬之『人間の達人 本田宗一郎』(PHP研究所) ---------- 栗下 直也(くりした・なおや) ライター 1980年東京都生まれ。2005年、横浜国立大学大学院博士前期課程修了。専門紙記者を経て、22年に独立。おもな著書に『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(左右社)がある。 ----------
ライター 栗下 直也