阿川佐和子「なんとなくズンバ」
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。トークショーで伊藤比呂美さんと久しぶりにお会いしたら、キュッと身体が引き締まり、肌もピチピチで若返った印象になっておられたそうで――。 ※本記事は『婦人公論』2024年6月号に掲載されたものです * * * * * * * 伊藤比呂美さんとトークショーをした。久しぶりにお会いしたら、キュッと身体が引き締まり、加えて肌がピチピチしているではないの。 「なんか前より若返ったみたい」 そう声をかけたら、伊藤さん、いとも嬉しそうに、「そうなのよ!」と勢いよく頷いた。 「ズンバのおかげ」 「ズンバ?」 聞いたことがあるようなないような。以前、伊藤さんがご自身のエッセイで綴っておられたが、そのダンスの正体が判然としない。 ラテン系のダンスには、サンバとかルンバとかジルバとかサルサとかタンゴとか、いろいろあるけれど、ズンバって、どんな感じだっけ? その場でちょっと踊ってほしいとトークショーの舞台上で伊藤さんに申し出たら、披露してくださるかわりに、「シッポ!」と伊藤さんは客席に向かって叫んだ。 「誰にも昔はシッポが生えていたんです。そのシッポがお尻にくっついていると思って、そのシッポの先を股間に挟んで前でぐいっと持ち上げる。そのとき腹筋に力を込める。ほら、そうすると正しい姿勢になるのです!」 なるほどね。感心しつつも、シッポとズンバの関係はなんなんだ? でもまあ、いいか。ズンバがラテン系のダンスであることは間違いないだろう。だいたい理解したつもりになる。 たちまちリオのカーニバルの光景が浮かんだ。こういうダンスを踊っているうちに伊藤さんは身体中の血流がよくなって、健康的なお顔になったのかなあと羨ましく想像した。
トークショーが無事終了し、帰宅したものの、どうもズンバが気にかかる。 さっそくネットで検索する。なんとズンバとは、昔から南米で踊られているダンスの種類ではなかったのだ。それどころか、「ラテン系の音楽とダンスを融合させて一九九〇年代に創作されたダンスフィットネスエクササイズ」なんだとか。 そもそもは南米コロンビアのフィットネスクラブで偶然のように生まれたプログラムであったものが、アメリカに渡り、むしろアメリカのフィットネス界で大ヒットしたのだという。その後、日本には二〇〇七年に輸入されたらしい。 ちっとも知りませんでした。 そこで近所にズンバを教えるところがどれぐらいあるのかを調べてみたところ、いくつかのフィットネスクラブに「ズンバコース」があったものの、ダンス教室で教えている気配はない。 つまりズンバはダンスというより、むしろエアロビクスのダンス版というか、ダンススタイルのエクササイズであるらしい。