卓球女子・和田なつきが金メダル「すごく幸せ」いじめを乗り越えて世界一の涙を流す【パリ・パラリンピック第9日】
卓球を始めたのは中学2年生の時。小学校の頃にいじめにあって不登校になり、心の傷を負って歩くことができなくなった。一時は車いすで生活していたこともある。その時に母は精神科の医師から「心の中につらい思い出がたくさんあるので、楽しい経験や小さな成功体験を積ませてあげることが大切」と言われ、時間の許す限り娘を外に連れて行った。公園、遊園地、映画館など、いろんな場所に出かけた。 その頃、引きこもりがちの生活だったので体重が増えてしまっていた。今より17キロほど重かったという。「これはヤバい。ダイエットしないと」と考え、近所の障害者スポーツセンターに通い始めた。その時に出合ったのが卓球だった。最初は遊びのつもりで始めたが、その奥深さにのめり込んだ。勝つ喜びだけでなく、負けた時に悔しくて涙を流すのが嫌で、必死に練習をするようになった。 「その時は(母に)連れて行かれるのはストレスでしかなかったけど、今になっては、『ありがとう』という気持ちです」 和田に知的障害があることがわかったのはその頃のことだった。だが、母は何も動じなかった。その時の思いをこう話す。 「この子には、人より優れているところがたくさんある。だから、できないところは底上げをして、あとは良い部分を伸ばしたらいいんだと思いました」 今でも大きな音が苦手だ。電車の乗り換えも得意ではない。それでも、卓球で遠征にたびたび出かけるようになり、世界の舞台で試合をすることも増えると、苦手なことが減って、できることが少しずつ増えてきた。 練習や試合でうまくできないことがあると、大きな声で泣く。それでも、世界のトップクラスの選手と戦うようになってからは決めたことがある。 「泣きたいときは1分間だけ思いっきり声を出して泣いて、1回スッキリして、次にどうするかを考えます。泣くのも自分だと思っています」(和田) 試合が始まる時とタイムアウトから試合に戻る前には、日本から駆けつけた応援団に向かって頭を下げて一礼をする。