串田アキラ、ギャバンを歌ってようやくわかった「カッコよく歌うこと」
「宇宙刑事ギャバン」や「キン肉マン」などのヒーローソングをはじめ、「富士サファリパーク」などのCMソングで知られる歌手・串田アキラ。熱く、力強く繰り出される串田の歌に「勇気をもらった」「大人になった今でも背中を押されている」と語るファンも多い。 ところがデビュー当初は音楽の方向性が、今とは全く違っていたという。ギャバンとの出会い、ファンの期待を裏切らないように歌い続けるための努力などについて語ってもらった。
ヒーローソング、どうやったらカッコよく歌えるか、わからなかった
串田が音楽の道を志したのは、中学生の頃だったという。 「10代の頃から米軍のベースキャンプでドラムをたたきながらリズム&ブルースを歌っていました。音楽が仕事になったといえるのは17歳くらいのときですかね」 その数年後、「からっぽの青春」でメジャーレーベルからのデビューが決まった。 「好きな歌を楽しく歌っていければそれでいい、という気持ちでしたね。ソウルミュージックがもともと好きだったんですが当時、日本ではソウルは虚しい、哀しい、つらいなどのイメージだったんでしょうか。楽しい曲もあるんですけれどね。事務所もそういう“黒っぽいフィーリング”で売り出したかったようで、撮影のときはあんまり笑ってはいけないとかまで指示されていました。なぜか“黒”から“暗”にイメージが置き換えられてしまったんですね」 そういうわけで用意された曲は、どことなく暗い曲ばかりだったという。 「僕としては楽しい気持ちで、ソウルを歌いたかったんですけどね」 その後、串田が映画『マッドマックス』の日本版エンディング曲「Rollin' Into The Night」を担当することになった。ヒーローソングを数多く手掛ける作曲家・渡辺宙明(ちゅうめい)氏が、この曲を聞いて串田の声を気に入り、『太陽戦隊サンバルカン』の主題歌歌手にと大抜擢をする。 「お話を頂いたとき、面白そう、やってみたいってまず思いました。マッドマックスもヒーローでしたし。レコーディングの前にサンバルカンが、どんなヒーローなのかと説明を受けたときは、正直、もう楽勝って思っていました」 とくに細かい注文はなく、ただ「カッコよく歌って」と言われただけだった。「よし、それならば」と思って、ソウルフルな雰囲気を出したり、抑揚を入れたり、思いっきり小細工に走ることで大人が思う「カッコよさ」を表現して歌ってみせた。 ところが「違うんだよな。カッコよく、カッコよくだよ」と何度も何度もダメ出しされた。これでダメなら「もうできません」と諦めようと思い、最後に素直に譜面通りに歌ったら、ようやくOKが出た。「やればできるじゃない」と言われたが、当時はわけがわからなかった。 「カッコよく歌う」という意味がやっと理解できたのは「宇宙刑事ギャバン」の歌のレコーディングのときだった。 「“ヒーロー=強い”と勝手に思い込んで、タカをくくっていた。強さばかりを全面に出して、ガンガン行けばいいと思っていたんですね。そうじゃなくって、子どもたちのために必要だったのは“やさしさ”だったってようやく気が付いたんです」