2024年ノーベル化学賞の共同受賞者デミス・ハサビス氏。ゲーム業界でのキャリアと、『シンジケート』『テーマパーク』など関わった作品たち
2024年のノーベル化学賞に、Google DeepMindのデミス・ハサビスCEOとジョン・ジャンパー氏、そしてワシントン大学のデビッド・ベイカー氏が選ばれたことが発表された。前者2人はAIを使ってタンパク質の構造予測を行うプログラムAlphaFold2の開発、後者はコンピューターを使った新しいタンパク質の設計が評価されたものとなる。 【記事の画像(6枚)を見る】 DeepMindと言えば、Atariの『Pong』やBlizzard Entertainment開発のRTS(リアルタイムストラテジーゲーム)『StarCraft II』など、しばしばそのAI研究の中でビデオゲームをテーマとしてきた。しかしハサビス氏とゲームの関係は実はもっと深く、プログラマーとして実際に名作のゲーム開発に関わっていたほか、自身のゲーム会社を経営していたことすらあるのだ。 そのキャリアの発端は、子供の頃からチェスの神童として知られたという同氏が、イギリスで大学入学に必要なAレベルと呼ばれるテストを通常より2年早く修了してしまったことにはじまる。ケンブリッジ入学までの期間を過ごすのに選んだのは、伝説的ゲームデザイナーのピーター・モリニュー氏が率いるゲームスタジオBullfrog Productionsだった。 Bullfrogでは、サイバーパンクテイストの犯罪シンジケート運営ゲーム『シンジケート』(1993年)に参加。公式にはプレイテスターのひとりとしてクレジットされているのみだが、一部レベルデザインも担当したとの説もある。Bullfrogでの次作となるテーマパーク運営シム『テーマパーク』(1994年)ではリードプログラマーを担当している。 そして同氏はケンブリッジ大学でコンピューターサイエンスを学んだのち、モリニュー氏がエレクトロニック・アーツ傘下となったBullfrogを退社して設立したスタジオLionhead Studiosに戻る形となる。 ハサビス氏がLinkedInに公開している経歴によると、ここで名作と名高いストラテジーゲーム『ブラック&ホワイト』(2001年)のプロトタイプ版の開発にリードAIプログラマーとして関わったようだ。ただし在籍は1997年から1998年までで製品版の発売前に退職しており、公式なクレジットには載っていない。 そして1998年に自身のゲームスタジオとなるElixir Studiosを設立。初タイトルとなる『Republic: The Revolution』(2003年)は終身大統領が君臨する架空国家の打倒を目指す政治シミュレーションゲームだったが、ゲーム開発の経験が少ないスタッフが多かったにも関わらず野心的なプロジェクトを進めてしまったことで開発は難航。残念ながら期待外れの評価を受けてしまった。 続けて手掛けたのは、世界征服を狙う悪の組織の運営シム『Evil Genius』(2004年)。正義の味方を撃退しながら手下たちを育成し悪のミッションに邁進する……というコメディタッチの作品で一定の評価を得たが、スタジオはこれ以降の作品を開発中止して売却。『Evil Genius』についてはRebellion Developmentsが権利を取得し、いくつかのスピンオフがリリースされたほか、正式な続編となる『Evil Genius 2』が2021年に発売されている。 かくしてゲーム業界でのキャリアに区切りをつけたハサビス氏はユニバーシティー・カレッジ・ロンドンで認知神経科学の研究に邁進することとなり、後のDeepMindの共同設立へと繋がっていく。 なお『シンジケート』についてはEA AppとGOG.comでPC版が配信されているほか、『テーマパーク』もGOGでPC版が配信中。『Evil Genius』はRebellionがパブリッシャーの形でSteamとGOGで配信されている。