映画『ルックバック』大ヒットの裏で監督が抱いた苦悩…スタジオは「製作委員会方式」とどう向き合うべきか
『ルックバック』大ヒットの裏側
こうして生まれた『ルックバック』の大ヒットはリードにも書いた通り。本作には、随所に押山のこだわりが現れている。それも、チームが少人数だったからこそである。 例えば、そのひとつが58分という尺。長い作品が受け入れられなくなりつつある現代に合わせた「戦略的な尺」だと思われがちだが、そうではないという。 「実は、偶然の産物というか、なにも戦略的にやっていないんです。 最初の企画ではそもそも短編映画の構想で、40~50分ぐらいを想定していた。でも、絵コンテを書いてみると、原作の情報をなるべく削りたくないなと思い、さらに映像化するときに必要な場面を足して、今の尺に落ち着いたんです。 短編映画にする方がビジネス的にはやりやすいだろうという考えもあったのですが、なにより作品のクオリティを重視してこうなりました」 長編とも短編ともつかない、中編とも呼ぶべき映画のジャンルを生み出すことができたのは、押山の作品へのこだわりを反映できたからだった。
これからのアニメーション業界に必要なこと
押山は、今後のアニメーション制作が持続可能なものになるために、製作委員会方式への関わり方も考えている。 「作品に応じて、制作スタジオがどういうポジションでいるのが最適かを考えることが必要だと思います。必ずしも製作委員会に入ることがベストではないですが、基本的には制作スタジオはある程度のリスクを取っても積極的に製作委員会に入るべきです。そこに入らないと、制作スタジオが未来を描くことは難しいと思います。 それに、アニメーションをめぐる権利関係は複雑で、どの権利を自分たちが持つべきなのかを検討することも重要だと思います。僕もまだ詳しくはないので、今後勉強すべき部分ですね」 スタジオ ドリアンの成功と今後の動きは、こうしたアニメーション制作スタジオの苦境、ひいてはアニメーション業界の苦境に一筋の光を照らすことになるのだろうか。ただ、押山は控えめにこう結んだ。 「とはいえ、アニメーションは今、過渡期にあります。若い世代が僕の方法でトライしても、また違う結果になるかもしれません」 それぞれのクリエイターで未来への生存戦略を考えていくべきときなのだろう。 構成/谷頭和希 〈番組詳細〉 『流通空論』 ラッパーでクリエイティブディレクターのTaiTanによるPodcast。 「流通」とはなにかを解きほぐしながら、ゲストたちと⾃由連想形式で「空論」を展開する、新感覚の「放⾔ビジネスプログラム」です。 流通にまつわる既存のルールを変えてきたゲームチェンジャーをゲストにお迎えして、ヒット商品誕⽣の舞台裏から新システム浸透の背景まで、「企て」のすべてに迫っていきます。毎週月曜日朝5時に配信。 Spotify:流通空論 | Podcast on Spotify Apple Podcast:Apple Podcast内の流通空論 Amazon Music:Amazon Musicのポッドキャスト番組「流通空論」 X(旧Twitter)アカウント:https://x.com/ryutsukuron
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