映画『ルックバック』大ヒットの裏で監督が抱いた苦悩…スタジオは「製作委員会方式」とどう向き合うべきか
作品がヒットしてもお金が入らない
押山が強調するのは、このような重責にも関わらず、制作スタジオにお金が集まりにくい仕組みで映画が制作されていることだ。 「多くのアニメ作品は『製作委員会方式』という方法で作られます。しかし、この委員会に制作スタジオ自体が出資をしないと、作品がヒットを飛ばしてもスタジオにはお金が入らないんです。 公開の利益は委員会に出資した団体に配分されるので、お金を出していない制作スタジオは、制作費しかもらえない。しかも、その制作費もここ10年でほとんど増えていない。 ですから、いいものを作ろうとすればするほど予算やスケジュールを圧迫して、自分自身の首を絞める状況になるのです」 であれば、制作スタジオが委員会に出資すればいいのでは、と思われるかもしれない。しかし、すべての作品がヒットするわけではない。したがって、そんなリスクが伴う出資を避けるスタジオが多いという。 ここに加わってくるのが、近年のアニメブーム。大量のアニメが作られ、視聴者側も質の高い作品を求めるようになってきている。 「視聴者の目も肥えています。だから作品の質がどんどん求められて、各スタジオがクリエイターの争奪戦になっています。けれども、肝心のクリエイターの待遇は一向に改善しない状況なんです」
スタジオ ドリアンの生存戦略とは
こうした状況から抜け出すため、押山は自身のスタジオを設立した。では、その生存戦略はどのようなものだったか。 「アニメを作るにはクリエイターが必要で、その人たちを食べさせるために作品を作り続けて売り上げを出さなければならない。まずは、その状態から抜け出すべきだと思ったので、人件費がかからないように極力クリエイターを雇わず、なるべく少人数で作品を生み出せる体制を整えていきました。 単純に私自身が山ほど仕事をすれば人件費が浮くため、自分を圧迫する感じで『ルックバック』は作っています」 実際、スタジオ ドリアンの短編『SHISHIGARI』は押山1人で原作・脚本・監督・作画を担当しているという。押山は少人数のスタジオの強みをこう分析する。 「小さなスタジオの強みは、スピード感や柔軟性を持って動けること。もうひとつ重要なのは、失敗したときのリスクが小さいことです。私自身さえリスクを被ればなにをやってもいい、という強みがあります」 大規模な制作スタジオでは手堅く売り上げを上げる必要があり、スタジオとしてやりたいことを抑制して仕事を受けなくてはならない。しかし、スタジオ ドリアンの場合、「やりたいこと」を優先して交渉に臨める強さがあるのだ。 そうして作品を作るなかで、徐々に制作のスケジュール感も把握できるようになり、『ルックバック』といった原作モノの作品も手がけるようになっていく。