「私は差別主義者なのか?」 異色の“右翼系”ドキュメンタリー映画が北米でヒット
異色の“右翼系”ドキュメンタリーが北米で大ヒットしている。「私はレイシスト(差別主義者)なのか?」をタイトルに冠した映画『Am I Racist?(原題)』は、9月13日~15日の北米映画週末ランキングで第4位に初登場。オープニング興行収入は475万ドルで、ドキュメンタリー映画として2024年最高、過去10年間で第3位という記録的スタートを切った。 【写真】北米興収第1位に輝いた『ビートルジュース ビートルジュース』場面写真 本作はアメリカの保守系メディア「The Daily Wire」が初めて手がける劇場公開作品で、同メディアの寄稿者でもあるコラムニスト・ポッドキャスト司会者のマット・ウォルシュが、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン:多様性・公平性・包括性)のプロフェッショナル認定を目指すという名目で、反差別のワークショップやディナーに参加したり、専門家や一般の人々にインタビューしたりと、その最前線に潜入する。 予告編では、登場する専門家や講師たちが「シスジェンダーの白人は社会の上層部だ」「アメリカは本質的にレイシスト」と口にする様子や、一般の白人たちが戸惑いを隠さない様子が映し出されている。本作では、DEIの専門家たちに利益がもたらされる構造を取り上げてもいるようだ。 もっとも映画公式のあらすじに、「理念ではなく利益が(DEIという)アジェンダを推進している実態を暴く」と記されているように、ウォルシュや監督のジャスティン・フォーク、ひいてはThe Daily Wireの姿勢は明白だ。本作は「社会実験」を標榜し、『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)とも比較されているが、ウォルシュが「極右」と評される人物、かつ反LGBTQ+運動の支持者であることはあらかじめ理解されるべきだろう。 しかしながら、北米の「映画興行」に毎週焦点を当てている本稿としては、そんな映画がかくもヒットしている現状に注目せざるをえない。 観客の分布を見ると、人種・民族的には白人が64%、ラテン&ヒスパニック系が19%、黒人が6%、アジア系が4%と、圧倒的に白人が多いことは明らか。男女比は男性56%・女性44%、年齢では35歳以上が59%、25歳~34歳が28%という結果となった。 映画館での出口調査によると、観客の52%が「保守派」、43%が「共和党支持」と回答し、8%が「政治的に中立」、3%が「民主党支持」と答えた。劇場に足を運んだ理由については、59%が「題材に関心があったから」、39%が「ウォルシュのファンだから」と答えている。 Rotten Tomatoesでは批評家スコアは表示されていない(レビューの数が少ないため)が、観客スコアは99%フレッシュという高評価。観客の政治的背景に偏りがある可能性は高いため、本作が特定の思想をもつ人々にしか届いていない、すなわち健全な社会的議論を呼び起こすものでないことも事実だろうが、それにしても本作の興行的成功は、多様性や包括性に対するバックラッシュがきわめて大きくなっていることを示している。「極右による極右のための映画」だと断じるのはたやすいが、事態はそう単純ではないだろう。