ハインズが明かすバンド解散の危機、無一文の日々、ふたりの絆と不屈の精神
苦難の時期を乗り越えた先に
『Viva Hinds』は、昨年の夏にふたりが2度にわたって訪れたフランスの田舎町でつくられた。それも、2軒の民泊施設でレコーディングを行ったという。ふたりは機材やラグをコシアルスの母親の古いワゴン車に詰め込み、マドリードから車を走らせた(「デス・ワゴン」と命名されたこの車は、2011年にふたりが旅行でスペインの地中海沿岸部をめぐり、デニア[地中海に面したビーチリゾート]でバンド結成を決意したときに乗っていたのと同じもの)。 ゆったりとした田舎町でのレコーディングは、まさにふたりが必要としていたものだった。ニューヨークのスタジオでレコーディングされた前作『The Prettiest Curse』(2022年)は、コストがかかったうえに不安な気分にさせられた、とふたりは振り返る。「最高にかわいい呪い」という意味のタイトルは、結果的にその後の“呪われた”時期を暗示していた。 「あの頃、私たちのマネージメント会社は、レーベルとの契約を取り付けるのに苦労していた。それに加えて、コロナのせいで貯金を使い果たしてしまい、私たちは無一文だった」とペローテは語る。「当然、マネージャーを雇うどころではなくなって……そのときに『視点を変えてみよう』って気持ちを切り替えたの」。コシアルスは、マネージャー不在の2カ月間を冗談を込めて「カルロッタ・プロダクション」と呼んでいる。 苦難はそれだけではなかった。2022年12月のバンドミーティングで、ベーシストのアデ・マーティンとドラマーのアンバー・グリムベルゲンが脱退を申し出たのだ。コシアルスは、ビールを片手に、楽観的な気持ちでミーティングの場を訪れたことを覚えている。仕事に取り掛かる準備はできていた。「いろんなことを整理して、再出発するために集まったと思っていた」とコシアルスは振り返る。ペローテも、高いモチベーションとともにその日を迎えた。「『ニューアルバムをつくりはじめないと! みんなは最近どんな音楽を聴いてるの? どこからはじめよう? どこか別の場所に行って曲づくりでもする?』みたいな気持ちだったのを覚えている。私たちにとっての最大の挫折だった」 ネイルサロンの椅子に座って黒いペディキュアを塗られながら、ペローテはあの日のことに思いを馳せた。「正直言って、かなりキツかった」と口を開き、次のように続ける。「すべてのミュージシャンがそうだったように、あんなにも長い間コロナの影響を受けたせいで……身も心もクタクタだった。バンドとして活動することは、遊びなんかじゃない――私たちのように、やることは山のようにあるのに、音楽が与えてくれる喜び以外に返ってくるものが少ないバンドにとっては、特にそう。それでも私たちは、何がなんでもバンドを続けていくことに意義があると思っていた」 翌年の春、ハインズは新たなツアーメンバーとともに再始動した。コールドプレイの2023年5月24日と25日のバルセロナ公演でオープニングアクトを務めたのだ。「コールドプレイのオファーを断るなんてありえない」とペローテは言った。ペローテとコシアルスは、ドラマーのマリア・ラサロとベーシストのパウラ・ルイスに出演を持ちかけた。「公演後に、実は断ろうとしていた、とふたりに言われた」とペローテは明かし、さらに続けた。「2夜連続で5万人の観客の前で演奏をするんだから、ふたりが怖いと感じたのは当然だと思う。実際、ふたりは恐怖を感じていたみたい。でも、ふたりとも信じられないくらいパンクというか――ハインズなんだよね。もしハインズが学校、あるいは文化だったら、あのふたりは正真正銘のハインズっ子だと思う」 『Viva Hinds』というタイトルは、ハインズにとっての大円団の瞬間を象徴している。結成当時はDeers(ディアーズ)を名乗っていた彼女たちは、当時すでに存在していた同名バンドに法的手段をとると脅されて「ハインズ」に改名した。コシアルスもペローテも新しいバンド名を好きになれなかったが、そんなふたりを応援するためにファンたちが「ビバ、ハインズ!」と唱えはじめたのだ。 苦しいこの数年間においても、彼女たちが愛してやまないファンたちはこの言葉を叫び続けた。「ステージに立つたびに、ファンのみんながこの言葉を唱えてくれた。その言葉を、今度は私たちの近しい友人や家族がかけてくれたの」とペローテは言う。「私たちが毎日涙を流し、助けを乞う姿を見て、あらん限りのものを与えてくれた。そんな彼女たちに贈るタイトルとして、これ以上ふさわしいものはないと思った」 私たちは、相変わらずネイルサロンの椅子に座っている。ペローテのネイルは乾き、コシアルスは念願のマッサージを終えたばかりだ。「私たちにとって音楽は単なる“フェーズ”ではなかった」とコシアルスは言った。「音楽は私たちの魂と骨、個性、そして情熱と切っても切れないもの。どれだけ音楽をやっても、一生飽きることはないと思う。18公演をやったいまも、その気持ちは変わらないわ!」
Angie Martoccio