ハインズが明かすバンド解散の危機、無一文の日々、ふたりの絆と不屈の精神
捨て曲なしのニューアルバム
ハインズのふたりは、互いの絆を「百万ドルの友情」と表現する。だが、相手の言葉を補ったり、数分ごとにお腹を抱えて大爆笑をしたりする姿を見ていると、親友というよりも姉妹のようだ。個別で過ごす日はほとんどなく(「ある日曜日を除いて」とペローテ)、喧嘩をした記憶もないという。意見が対立すると、ピリピリした空気を和らげるために「Convince Me(私を説得して)」というゲームをする。その名の通り、相手を説得して意見を受け入れてもらうのだ。 「お互いを労り、愛している」とペローテは言い、さらに続けた。「私は、CC(カルロッタ・コシアルス)に『大金が入る大事なライブをキャンセルしたい。いまは悲しい気持ちでいっぱいだから』って正直に言えるし、それを言ったところで私に腹を立てたりしないこともわかっている。私たちは、離れているときよりも、一緒にいるときのほうがもっともっと大きなものをつくれると信じているから。特に音楽業界に身を置く女性として、これはとても大切なことだと思う。大変な業界だからこそ、互いの存在が欠かせない。ふたりの女性が友人として支え合いながら働く姿を見るのは、若い子たちにとっても意味のあること――素晴らしいことなんじゃないかな」。 ふたりの固い絆は、遊び心あふれるヘヴィなリフが特徴のオープニング曲「Hi, How Are You」から、いきいきとしたロックチューン「En Forma」にいたるまで、ニューアルバム『Viva Hinds』全体から感じられる。バンド史上初となる全編スペイン語歌詞の「En Forma」は、コシアルスが恋人と別れたあとに書かれたものだ(それは30歳の誕生日を迎えた週のことだった)。「あんなやつのことを歌うのは1曲で十分。それより多くの曲を捧げるなんて、なんかムカつく」とコシアルスは振り返った。 そのいっぽうで、この曲には別の意味も込められている。それについてペローテは、本質的には女性として「その日をどうにかして生き抜くこと」について歌っていると解説した。「女友達とおしゃべりをしているときは、『爪がしょっちゅう割れるんだけど』みたいなくだらないことばかりしゃべっていても、急に政治や社会課題について話したりするの。私は、そうやっていろんな話題を織り交ぜるのが大好き。男友達とは、こういうことはできないんだよね。もちろん、彼氏とも無理かな」(「交際中の人はいますか?」とコシアルスに尋ねると、満面の笑みで「ボーイフレンドはいっぱいいるよ。誰に会いたい?」とはぐらかされてしまった)。 『Viva Hinds』には、一曲として“捨て曲”がない。ハインズの新たな定番曲となること間違いなしの「Superstar」(マドリードの自己中心的なミュージシャンとの怒りに満ちた別れのキス)や、ベックをゲストに迎えた珠玉のサマーソング「Boom Boom Back」など、本作に収録されている10曲のひとつひとつが独自の光を放っているのだ。ふたりは、ロサンゼルスでドキュメンタリーを観に行ったときに偶然、敬愛するベックと出会い、なんとなしにコラボレーションを持ちかけたという。「今日も、一緒にタコスを食べに行かない? ってメッセージを送ったばかり」とペローテは言った。 もともとふたりは「Superstar」を先行シングルにしたいと考えていたが、チームに説得されて「Coffee」を2月に先行リリースした。シンプルで甘いこの曲は、コシアルスとペローテの実のきょうだいが出演するMVとともに公開された。“ブラックコーヒーとタバコが好き/寝た相手じゃない男の人からもらう花束も好き(I like black coffee and cigarettes/And flowers from boys that I’m not sleeping with)”という歌詞が特徴的だ。 「頭を使って考えるタイプの曲じゃない」とペローテは言い、次のように続けた。「『ブラックコーヒーとタバコが好き』より誠実な歌詞なんてないと思わない? バンドを結成して10年以上になるけど、自分たちが面白くて深いバンドだってことを証明したいんだよね。だってハインズには、いくつもの“顔”があるから。ただ楽しい遊びだけのバンドじゃないの。でも、わざわざそれを証明する必要がないこと――深みやいろんな側面を見せなくてもいいことに気づいた。本当にそうしたものがあるのなら、必ず伝わると思っているから。正直なところ、ほかのバンドのこういうところが気に入らないんだよね。カッコつけるのもいい加減にしてほしい」 「それ以上、自分たちを面白く見せる必要はないよね。そのままで十分面白いんだから!」とコシアルスも口を揃えた。