『ビューティフルライフ』『半沢直樹』…誰もが心動かされた「歴代最強の日曜劇場」ベスト10大公開!
変化を遂げてきた「日曜劇場」
影山貴彦(メディア評論家) 「日曜劇場」は’56年からTBS系で放送されている、日本でもっとも歴史のあるドラマ枠です。’02年9月までは東芝の一社提供で、「東芝日曜劇場」の名前で知られていました。僕は’90年前後、TBSの系列局である毎日放送でアシスタントプロデューサーとして関わっていましたが、伝統ある看板ドラマ枠として我々制作側にとっても特別な存在でした。今回は’00年以降の作品に限定し、「最強の日曜劇場」を決めるために3人が集まっていますが――実は日曜劇場って、今の大河ドラマチックな形になるまで何回か方向転換しているんです。 【写真多数あり】大胆シースルードレスにキャミワンピ…常盤貴子がみせた「妖艶姿」 大山くまお(ライター) ’93年3月28日の『おんなの家』までは一話完結型のドラマを放送していましたよね。単発ドラマ時代は女性が主演の、女性が観るホームドラマが多い印象でした。同年4月から連続ドラマ形式になり、テーマも一変。おじさんを癒やす……というか、男性の主人公が恋したり、仕事したりする作品が主流となり、田村正和や役所広司(68)ら大物が主演を務めました。それが’00年代に入るとさらに変化を遂げます。’00年代最初の作品は、当時20代の木村拓哉(51)と常盤貴子(52)が主演を務めた『ビューティフルライフ』(’00年)。人気のない美容師と難病を患う車椅子の女性が紡ぐ純愛ラブストーリーが日曜劇場史上一位の32.3%という全話平均視聴率を叩き出した。この爆発的ヒットを受けて、日曜劇場は若者向けのドラマに変わっていきました。 今井舞(ライター) 『催眠』(’00年)や『Mの悲劇』(’05年)に稲垣吾郎(50)、『ガッコの先生』(’01年)や『元カレ』(’03年)に堂本剛(45)と、旧ジャニーズの人気者が次々と主演に抜擢され、それがしばらく続きましたよね。 次の転換点は’13年。『半沢直樹』が現在の「日曜劇場といえばコレ」という共通認識の方向づけをしました。一番の魅力は何と言っても、「勧善懲悪」ですね。ハラハラする要素ももちろん楽しめるんですけど、名台詞「やられたらやり返す、倍返しだ!!」とともに毎話、クソ上司など悪党が倒される。最高にスカッとさせてくれます。最終話の視聴率が42.2%を記録し、「倍返し」が流行語大賞を受賞するなど、社会現象となりました。 影山 銀行を舞台とする骨太な『半沢直樹』が大成功を収めるなんて制作側も予想していなかったと、監督が取材で言っていた。半沢以後、『下町ロケット』(’15年、’18年)や『陸王』(’17年)など、池井戸潤原作のドラマがヒットを連発。日曜劇場にとってなくてはならない存在となりました。共通テーマは、弱きものが様々な困難に立ち向かい、大きなことを成し遂げる――。僕も毎回楽しく観ていたのですが、さすがに何作も続くと、またかよ、と思ってしまう。「視聴率が20%を超えたから良かった」ではなく、視聴者もいつか飽きることを考えねばならない。「柳の下にドジョウが3匹いる」じゃダメなんです。 大山 『陸王』は好きですけどね! 中小企業が困難に立ち向かうという″王道″パターンではありますが、地に足のついた物語になっています。田舎の潰れかかっている足袋の会社がランニングシューズ作りで再起していくのですが、妨害してくるライバル会社の営業部長のような小悪党をギャフンと言わせながら夢を掴みにいく。物語の盛り上がりのために無理やり作ったようなミッションがなく、ストーリーも辻褄があう。作品のバランスが良いですよ。 近年は『テセウスの船』(’20年)や『マイファミリー』(’22年)、『VIVANT』(’23年)などが、物語の黒幕は誰なのか、とSNSでの考察で盛り上がりを見せました。視聴率も悪くなかったのですが、僕には刺さりませんでした。例えば『テセウスの船』は主人公がタイムスリップして、父親の冤罪を晴らすために奔走するのですが、真犯人を探す過程で、現代を生きる母親や妻の運命を変えてしまう。いろんな要素がてんこ盛りで観ているほうは混乱してしまいます。しかも、登場人物が一通り怪しく見える演出がされていて、まるで犯人について考察してもらうことを目的にストーリーが構成されているように感じました。結局何を伝えたかったのか、制作側のメッセージが全く伝わらなかった。 ◆時代を超える名作 今井 『VIVANT』は最高視聴率が19.6%と近年稀に見る高視聴率の作品ですが、私はアメリカの犯罪サスペンステレビドラマ『ブラックリスト』の既視感がすごくて、入り込めなかった。『ブラックリスト』を知らない人の目にはものすごく面白く映るんだろうなとは思いましたけど。父権的な秘密組織の犯罪ドラマで方向性は同じですが、スケールがケタ違い。日本はこれで満足していいのかとガッカリしました。 影山 なんか悪口大会みたいになってきましたが(笑)、素晴らしい作品もたくさんあります。僕は『オレンジデイズ』(’04年)が一番好きです。妻夫木聡(43)が演じる平凡な大学生・結城と、柴咲コウ(43)が演じる天才バイオリニスト・萩尾を中心とする青春群像劇で、5人の主人公がそれぞれの悩みや葛藤を抱えながら前に進もうとする姿が描かれています。萩尾が聴覚を失う病気にかかり、それでもかわいそうだと思われたくなくて、懸命に生きようとする姿が忘れられません。実は最近、この作品を私が持っている大学の授業で教え子に見せたのですが、今の大学生も「めっちゃ良い」と気に入ってくれました。時代を超える名作に違いありません。 柴咲コウの出演作で言えば『GOOD LUCK!!』(’03年)も秀逸でした。木村拓哉が演じるパイロットと、同じ航空業界で働く柴咲が恋に落ちるのですが、薄っぺらいラブストーリーではない。パイロットの恋人といえばCAというのが王道ですが、柴咲は航空整備士。両親を航空機事故で亡くした悲しい過去を持っていて、そのトラウマで飛行機に乗れません。職業ドラマであり、ヒューマンドラマでもあるこの作品は全話平均視聴率30.6%と大ヒットしました。全面協力した全日空の株価が上昇し、航空業界への就職志望者や航空整備士を目指す女性が急増するなど、社会現象になりました。 大山 空を舞台とする作品なら、僕は『空飛ぶ広報室』(’13年)のほうが好きですね。航空自衛隊の広報室を舞台にした職業ドラマですが、綾野剛(42)演じる自衛官・空井大祐と新垣結衣(36)が演じるテレビ局勤務のディレクター・稲葉リカが自分の悩みや課題に向き合い、成長していく過程が丁寧に描かれています。東日本大震災の2年後に放送されたこの作品は、震災時の自衛隊の救援活動や、その際に彼らが直面した困難などを真正面からとらえている。影山さんが挙げた作品と共通しているのは、恋愛要素はあるけどそれだけではなく、もっと大きな視点でストーリーが描かれているところですね。 影山 実在の人物をモデルとした作品でも良作がありました。佐藤健(35)主演の『天皇の料理番』(’15年)は、大正・昭和時代の宮内省厨司長を務めた秋山徳蔵が、寺での修行が続かない少年を経て、天皇の料理番に上り詰めるまでをドラマ化した作品です。時代背景が忠実に再現されていて、料理のシーンも美しい。 実はこの作品はそれまで、’80年と’93年の2度にわたりドラマ化されています。僕は’86年に毎日放送に入社したのですが、新人の頃、再放送プログラムを担当していた先輩に「もう一回観たいドラマはある?」と聞かれて、’80年版の『天皇の料理番』を挙げたことがあるんです。「視聴率は振るいませんでしたけど、素晴らしい作品です」と。そしたら、再放送が深夜の割には視聴率を取った。するとその後、’93年にスペシャルドラマ、’15年にTBS60周年特別企画として日曜劇場の『天皇の料理番』が制作されました。この作品には主人公の兄として鈴木亮平(41)が出ていて、好演ぶりがスタッフの目にとまり、その後の『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(’21年)や『下剋上球児』(’23年)などの日曜劇場での主演につながっています。 大山 映画並みの予算を使って、その時代の風景や衣装を忠実に再現できるのは日曜劇場だからこそ。『華麗なる一族』(’07年)もそうでした。高度経済成長期の富豪銀行家一族の繁栄と没落が重厚に描かれています。木村拓哉主演のドラマとしては珍しく悲劇だったのも印象的でした。 今井 『JIN-仁-』(’09年)も、日曜劇場の実力を見せつけた重要な作品だと思います。大沢たかお(56)が演じる現代の医師・南方仁が江戸時代にタイムスリップする奇想天外な話ですが、医療と歴史を見事に融合している。仁が医療の限界や倫理的ジレンマ、また歴史を変えてしまうかもしれないという葛藤と戦いながら命を救おうと奮闘する。仁は内野聖陽(56)が演じる坂本龍馬と信頼関係を築いていき、暗殺される運命から龍馬を救う――というストーリー展開も魅力的でした。時代劇はお金がかかる割に数字が取れないので敬遠されがちですが、『JIN-仁-』の制作に踏み切り、漫画原作を見事に実写化して成功を収めたTBSは、さすがだと思います。 大山 ″ザ・日曜劇場″というべき重厚な作品をたくさん振り返ってきましたが、コメディや学園ドラマにも特筆すべき作品があります。宮藤官九郎脚本の『ごめんね青春!』(’14年)は、仏教系男子校とカトリック系女子校の合併騒動を描く物語。第1話の冒頭で、いきなり観音菩薩がナレーターだと名乗ったりする(笑)。 今井 クドカンワールド全開でしたね。私も大好きな作品です。錦戸亮(39)が演じた男子校教師・平助は頼りなくて喧嘩に弱く、父親から童貞と決めつけられている。満島ひかり(38)が演じた女子校教師は平助に運命を感じ一方的に結婚すると決めている。この二人を代表とする個性豊かなキャラクターたちは、見応えがありました。 大山 おそらく時代とも日曜劇場の視聴者層ともマッチしなかったのが原因だと思いますが、平均視聴率が7.7%と日曜劇場史上一番低い。でも、男女をはじめとする様々な異文化が摩擦を起こしながら相互理解していくテーマはすごく現代的です。ひょっとしたら今こそ観るべきドラマかもしれません。 影山 異色の日曜劇場と言えば、『パパとムスメの7日間』(’07年)が印象に残っています。舘ひろし(74)が演じるパパと、新垣結衣が演じるムスメが入れ替わる話ですが、あの舘ひろしが「どうして私がこんな風になっちゃったの!?」と女子高生らしく振る舞うのを観るのが楽しくて(笑)。一方、注目の若手女優だったガッキーが父親らしい重厚感とサラリーマンの風格を見せていて、すでに大物感がありましたね。 大山 舘ひろしがずっとクネクネしていましたよね。ガッキーに対して「お父さんやめてよ。私の体触らないでよ」って。今思えば、日曜劇場でよくこれをやっていたなあと(笑)。 ホームドラマでもう一つユニークな作品があります。『おやじの背中』(’14年)はオムニバス形式の作品で、坂元裕二や山田太一、三谷幸喜ら日本を代表する10人の脚本家が「父と子」をテーマに書き下ろしています。売れっ子脚本家たちが手がけた物語は一つ一つの作りが丁寧で、何より同じテーマでも脚本家によって全く異なるアプローチが楽しめるのが魅力です。’93年3月までの「東芝日曜劇場」では単発ドラマを放送していたので、初心に立ち返るという意味でも非常に特別な作品です。 ◆いつもと違う大泉洋が 今井 ″下剋上″は″勧善懲悪″と同じく、日曜劇場の重要なテーマの一つです。『ドラゴン桜』(’21年)は日曜劇場にしては珍しい学園劇ですが、平均偏差値32で、様々な問題を抱える高校生が型破りな教師と出会い、東京大学に現役合格するというストーリーが爽快でした。最後の最後に快感が待っているという安心感があるから、ついつい観てしまう。 影山 『ドラゴン桜』は’05年に前作が金曜ドラマ枠で放送されていて、それに生徒役で出演していた長澤まさみ(37)が弁護士となって再び登場しました。長澤は完全に主演クラスの女優ですが、脇役としてこのドラマに参加するという″遊び″に、エンターテインメントの良さみたいなものを感じましたね。 皆さん、直近で印象に残った作品はありますか? 僕は『ラストマン-全盲の捜査官-』(’23年)でのいつもと違う大泉洋(51)が新鮮で面白かった。明るくてフットワークの軽い従来の印象から一変、ワケありで明るく弾けられないベテラン刑事・護道(ごどう)を演じた。彼がバディを組むのは、福山雅治(55)が演じた全盲でありながら優秀なFBI捜査官・皆実(みなみ)。ワケありで闇を抱える護道と自由奔放で明るい皆実と上手い具合にバランスが取れていて、時に笑い、時にシリアスな場面で見せる二人の掛け合いが面白かった。 今井 『半沢直樹』以後、日曜劇場の不文律が出来上がり、″悪役の顔芸″や、″絶体絶命に追い込まれてやがて悪を倒す″展開が多くの作品に共通しています。今年放送された『アンチヒーロー』も『半沢直樹』と同じ″勧善懲悪″もの。何も考えずにその快感に酔いしれられるから観ていて気持ちいい。長谷川博己(47)が演じた元検事の弁護士・明墨(あきずみ)は登場していきなり殺人犯に「あなたを無罪にして差し上げます」と言う。主人公を悪人に見せておいて、実は……という″ダークヒーロー″の演出で、ほかの作品と差別化されて、日曜劇場のファンはもちろん、若年層も惹きつけました。 大山 日曜劇場ではこれまで様々な挑戦がなされており、印象に残る名作がたくさん誕生しました。ただ、『半沢直樹』以降、我々が日曜劇場を論じる時は無意識に『半沢直樹』を基準にしている気がします。社会現象を引き起こし、今の日曜劇場の形を造ったという意味で、日本ドラマの歴史において重要な作品と言えるでしょう。「最強の日曜劇場」は『半沢直樹』ということでいかがでしょうか。 影山・今井 異議なし!! 『FRIDAY』2024年11月15日号より
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