アシックスの“ニンバス ミライ”開発秘話 単一素材化と分解可能な接着を実現
リサイクルポリエステルは、リサイクルの工程で物性が劣化することが多く、ヒールカウンターや甲のニット部分など剛性を必要とする部分では用いることができず、100%実現は難しかった。そもそも、複数の異素材で構成されるアッパーを単一素材化することも難易度が高い。「シューズはポリエステルが最も多く使われていることから実現可能性が高いと考え開発を始めた。けれど、通常10種類以上の素材から成るシューズのパーツを、全てポリエステルで補完するのは容易ではなかった。例えば、着用時のホールド感とフィット感を実現する、かかと部分に用いるウレタン製のスポンジ材や、芯材の代用を見つけるのに苦労した」。スポンジはマットレスや医療用クッションに用いられる不織布を、芯は熱で固まるポリエステルを編んで代用した。アッパー素材は5社のサプライヤーと組んだ。アシックス社内で検討を行い、それをサプライヤーに依頼する形で進めた。
もう一つの大きな課題はアッパーとソールの分解可能な接着だった。開発段階では縫製でつなげるアイデアが出たというが断念。途方に暮れていたときに、「2006年に開発し、実用化に至らなかった接着剤の存在を思い出した」という。「マイクロカプセルを接着剤に混ぜたもので、温めると膨張するので接着面がはがしやすくなる。当時はウォーキングシューズの修理の際、ソール張替を容易に行えないかと検討していた」という。今回100パターン以上を試して、実現できた。その配合については「シューズによって配合が変わるので非公開だが、検討しているメーカーがあれば相談には乗る」。使い捨てが主流のスニーカーのリサイクル推進にも前向きだ。
ユーザーを巻き込む回収スキーム
回収・リサイクルはテラサイクルと協働する。テラサイクルはリサイクル・再資源化・リユースを推進するプラットフォームを構築し、世界21か国で運用する。テラサイクルをパートナーに選んだ理由は「化粧品ボトルなどですでに実績があり、米国に回収した製品の再資源化するファシリティがあったから。とはいえ、実際に運用が始まると改善するポイントが出てくると感じており、都度最適化していきたい」と奥村啓基パフォーマンスランニングフットウエア統括部カテゴリー戦略部戦略チームマネジャー。