「ピッチに立てなくても思いは一緒」 高校サッカー日本一の夢、仲間に託す 負傷の青森山田2選手
28日開幕の全国高校サッカー選手権で連覇が懸かる青森県代表の青森山田は31日、高川学園(山口)との初戦を迎える。主力を担ってきたMF大沢悠真選手(3年、青森市出身)、DF山口元幹選手(同、大阪府出身)は膝に大けがを負い、出場はかなわなかった。「ピッチに立てなくても思いは一緒」。日本一の夢を仲間に託す。 11月下旬の練習。ジョギングを終え、ボールを蹴ろうとした瞬間、大沢の左膝が悲鳴を上げた。前日の試合で半月板を痛めたとみられ、症状の緩和を目的とする保存療法を医師が選択肢に入れないほどの重傷。「手術しないと治らない」と告げられた。それは子どもの頃からの目標だった選手権出場の道が絶たれたことを意味した。「この時期にけがをするなんて」。涙があふれた。 夏の悔しさを晴らす舞台にするはずだった。7月の全国高校総体。PK戦にもつれた準々決勝で5人目のキッカーを務めたが失敗、試合に敗れた。「冬こそ日本一になろうと練習、試合に死ぬ気で取り組んできた」。左サイドMFとして先発出場を続け、攻守で体を張り、体力が尽きるまで走り切った。コーチ陣からは「ハードワークする青森山田の象徴」と言われるまでの存在となっていた。 手術後、足は完全に固定され、松葉づえが手放せない。失意の中、チームメートからの言葉が支えになった。「悠真の分も戦う」と数え切れないほどの連絡が来た。「足が動かなくても仲間のために何かできないか」。思いついたのは千羽鶴。入院生活の2週間で両親と1150羽を折った。退院した今月18日、正木昌宣監督に手渡した。今大会では青森山田ベンチに飾られる。 10月に右膝にメスを入れ、全治8カ月の診断を受けた山口はリハビリと並行してチームのサポート役を務める。「高校サッカーに未練を残したくない。できることをやり抜く」と自ら名乗り出た。練習の準備や片付けに加え、対戦相手の分析を行う。試合動画に目を通し、得点と失点の傾向、シュート数などのデータをパソコンを使って資料4枚にまとめ、チームメートに配っている。 成績が伴わず、練習の雰囲気が悪くなった11月下旬には、30人以上の選手から個別で思いを聞き取った。そこで多くの選手が口にした課題は得点力不足だった。軸となるサイド攻撃に着目し、クロスボールを合わせるシュート練習でゴールが決まった回数を数えると成功率は33%。「抽象的な言葉よりも数値を示した方がやる気が出る」と選手目線に立ち「成功率40%」と自ら購入したホワイトボードに書き出して全員で共有、選手を奮い立たせた。 チームからの信頼は厚い。正木監督は「コーチよりも山口の言葉が選手に響いているかもしれない」と存在の大きさを語る。小学時代からプレーをともにするMF川口遼己(3年、大阪府出身)は「支えてくれて感謝しかない。自分たちが日本一の景色を見せたい」と闘志を燃やす。 2人が試合で着るはずだった13番と6番のユニホームは川口らが自身のユニホームの下に着込んでプレーする。「最高の仲間に恵まれた」と大沢。山口は「あとはあいつらがやってくれる」。ピッチ外から声を張り上げ、大舞台をともに戦う。