和泉元彌さん(50)親子関係でもあり師弟関係でもある特殊な子育ての根底には「伝統を引き継ぐことへの覚悟と感謝」|STORY
受け取る側がいないと伝統も継承できないので、稽古では毎回「ありがとうございました」と挨拶します
ーーお子さんの反抗期はどうでしたか? 娘も息子も成人しましたが、反抗期らしい反抗期はありませんでした。稽古で毎日会って向かいあっていたからですかね。最近は子どもの手が離れますねと言われますが、まだ修行過程なので手が離れたというのはないのですが、同士という感覚になってきました。稽古の前によろしくお願いしますと子どもから頭を下げるのですが、僕は子どもに頭を下げて一緒によろしくお願いしますと挨拶をします。伝統を受け継ぐというのは、受け渡す側だけでなくて、受け取る側もいないと引き継げないので、毎日よろしくお願いします、ありがとうございましたと挨拶しています。
20世宗家として伝統を継承するものとしてこれからも自分の背中を見せていくつもりです
ーー21歳の時に師匠でもあるお父様が他界されましたが、当時の心境はいかがでしたか? 僕は二十歳の時に、父の「和泉流十九世宗家家財51年記念」とともに「宗家継承者成人披露」を行いました。翌年父が急逝し、父がやる予定だった舞台の引継ぎが宗家としての最初の務めでした。まわりには「若い」と言う人もいましたが、舞台を止めるわけにはいかないですし、継承しなくては歴史が途絶えるので選択の余地はありませんでした。宗家になっていきなりの大仕事でしたが、プレッシャーを感じる暇もなくがむしゃらに取り組みました。いきなり宗家になったわけではなくて、生まれた時から継承者として育てられた全ての時間が拠り所となりました。 伝統は時流に流されてはいけませんが、闇雲にコピーするだけではいけません。特に伝承の面では。人によって伝わり方は違います。父と同じで良いかといったら、それは違います。人も環境も違う訳ですから。「変えずに伝えるべきことは何なのか?伝え方ではなく、伝える心なのだ」と気づいた時、自分なりの形も生まれてきました。変わらぬ心を伝えるために、変わらぬ型を伝承する。だからこそ、伝え方などを日々工夫しながら本質は変えないように継承することを心がけています。 人生の中で一つのことを見つめ続け、やり続けたからこそ、観察眼が研ぎ澄まされ、気がつけることも沢山あるんです。面白い職業かもしれないです。 息子が7月に修行過程の最終演目である『釣狐』披きます(初演します)。これで、ある意味独り立ちになり、これから僕は見守る立場になるのですが、一生修行なので生きている限りは僕は師匠として、これからも自分の背中を見せていかなくてはいけませんね。 トップス¥24,000ジャケット¥58,000パンツ¥32,000/すべてMXG golf & sports (MIKIO ART) お問い合わせ:MIX SENSE株式会社 撮影/沼尾翔平 ヘアメイク/Kamata Misaki 取材/山崎智子