ゆっくり走る「スローランニング」のメリットや実践方法
正直、エディターのスカーレット・ケディはランニングが好きじゃない。速いペースで走り続ける類のランニングは特に苦手。すぐに息が切れてしまうし、彼女はサーキットトレーニングのほうが得意。昔は競技スポーツでもクロスカントリーでも何でもしたし、適性も気にしたけれど、いまは体の動かし方を慎重に選んでいる。 【写真】ランニングが脳にいい理由8 そんな彼女の最近のお気に入りは“スローランニング”。オーストラリア版ウィメンズヘルスから見ていこう。
スローラニングとは? どんなメリットがある?
ランニングの強度には通常5~6つのゾーンがあって、これまでの研究から、走りながら会話ができるゾーン2は乳酸閾値を超えない(エネルギー源としての糖の利用が多すぎない)最適な強度であることが分かっている。そのゾーン2に終始とどまるスローランニングの利点は、誰にでもできるということ。現在のフィットネスレベルに関わらず、スローランニングでは、ゆっくりと着実に走ることが許されるどころか歓迎される。さらに、延命効果を謳うスローランニングは、一般人だけでなくアスリートにとっても高強度のランニングより有益であることが研究によって証明されている。 「エリウド・キプチョゲのようなエリートランナーが世界記録を樹立するには、それこそ世界記録を樹立するようなペースでトレーニングをしていると思うかもしれませんが、意外なことに彼らは、トレーニング時間の約80%をいわゆる“ゾーン2のランニング”に費やします」と話すのは、英アングリア・ラスキン大学助教授のダン・ゴードン博士。「ゾーン2では、心拍数を上げつつも会話ができるくらい穏やかなペースで走ります。レース本番のペースに近い高強度のゾーンで行うトレーニングは全体の約20%だけですよ」 ゴードン博士によると、これはトレーニングが体に与えるストレスの量を考慮してのこと。「ランニングのペースが上がれば上がるほど、体にかかる負担が大きくなり、体にかかる負担が大きくなればなるほど、病気、感染症、ケガのリスクが高くなります。アスリートは、高い強度で走る時間を減らすことで、病気やケガでトレーニングができなくなる可能性を下げているのです」 でも、スローランニングの利点はケガを防げることだけじゃない。ゴードン博士の研究チームによると、トレーニングには、その人の“ベース”、つまりトレーニングを支える生理学的な基礎を作るという重要な側面がある。そして、メンタル面とフィジカル面のベースが強ければ強いほど、その後のトレーニングでパフォーマンスが向上し、成長する可能性が高くなる。 ゴードン博士によると、このようなベースを作るのは健康全般のためにもよいこと。「このベースは、生理学的な負荷が比較的少ない(ゾーン2の)スローランニングで作られます。ゾーン2のランニングで心臓に大きな負荷がかかることはありませんが、1拍動ごとに心臓から排出される酸化を含む血液の量は最大量になるか、最大量に近くなります。動いている筋肉に送られる1拍動あたりの酸素量を増やすのは、よい走りに不可欠です」 スローランニングでは、食べ物から摂取する糖ではなく体に蓄積されている脂肪が燃料として使われる。脂肪を燃やすのは代謝的に効率が良く、脂肪の単一分子を燃やすことで作られるエネルギーの量は、糖を燃やすことで作られるエネルギーの量よりはるかに多い。つまり、スローランニングでは体が疲れにくいので、いざというときに速く走れるということだ。 もちろん、このスローランニングのメソッドは世界的な注目を浴びている。ノルウェーのアスリート集団も、スローランニングの要素を取り入れた“ノルウェー方式”のトレーニング法を開発した。彼らは、レースの終盤で燃料タンクが空っぽになるような走り方をするのではなく、乳酸閾値を上回らない走り方をすることで乳酸の産生量を抑え、レースを走り切るだけでなくラストスパートもかけられるだけの燃料を確保することに成功している。