日本のネオアコブームに大きな影響を与えたベン・ワットの『ノース・マリン・ドライブ』
OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。70年代後半から始まるポストパンク時代には、ニューウェイブ、スカリバイバル、エスノロック、ダブ、シンセポップなど、さまざまなスタイルの新しい音楽が生まれたが、それらは大手レコード会社では扱いにくいアイテムであり(売れるかどうか分からない)、小回りの利くインディーレーベルからリリースされることが多かった。80年初頭のイギリスで、インディーズのチェリーレッドからリリースされた廉価盤のコンピレーション『ピロウズ・アンド・プレイヤーズ』(‘82)が大ヒット、83年1月にNME誌のインディーズチャートの1位となる。このアルバムは3月になっても1位をキープした上、3位には同レーベルの『遠い渚』(トレーシー・ソーン)、5位にもチェリーレッドの『ノース・マリン・ドライブ』(ベン・ワット)が入るという快挙となった。『遠い渚』も『ノース・マリン・ドライブ』もほぼ生ギターが中心の作品で、この新たなアコースティックサウンドは日本でも話題となり、後のネオアコや渋谷系サウンドに大きな影響を与えたのである。そんなわけで今回はベン・ワットの『ノース・マリン・ドライブ』を取り上げる。 ※本稿は2019年に掲載
新世代のフォーク風ロック
1981年にデビューしたスコットランド出身のアズテック・カメラはポストパンクの中でも、フォーク風ロックというシンプルなスタイルで目を引いたグループだ。ここで、わざわざフォーク風ロックと書いたのは、よくある(特にアメリカに多い)フォークロックとは系統が違うからである。通常フォークロックと呼ばれる音楽は、50年代から連綿と続くフォークリバイバルというフィルターを通したある種のルーツ系音楽であるが、イギリスで80年初頭に登場したフォーク風ロック(所謂ネオアコ)はパンクロックのフィルターを通したまったく新しい音楽であり、フェアポート・コンベンションやペンタングルといったブリティッシュ・トラッドのグループとも音楽的な繋がりはないのが特徴である。 アズテック・カメラの登場を皮切りに、アコースティック楽器を使ったグループが次々にデビューする。ペイル・ファウンテンズ、フェルト、ジャザティアーズ、ゴー・ビトウィーンズ(オーストラリアのグループで、後のグラント・マクレナン)などのグループはもちろん、スミスも最初はネオアコ的感覚を持ったグループであった。