話題の学問「SEXOLOGY(セクソロジー)」とは? 人間の性を学ぶとどんないいことがある?
科学的根拠に基づいた性の研究「セクソロジー」って一体なに? 大人のための性教育サイト「SEXOLOGY - 性を学ぶセクソロジー」監修者のSRHRアクティビスト福田和子さんと、性/SEXについての科学的根拠に基づく知に触れる学問と「性教育」のグローバルスタンダードに触れる入門編をお届けします。
Q1. セクソロジーって、そもそも何ですか? A1. SEXOLOGYとは、日本語では「性科学」。人間の性に関わる科学的な研究分野です 人間の性に関わるあらゆる事柄について、医学、生物学、社会学、心理学、教育学といった科学的側面から研究する学問です。日本ではまだ聞きなれない言葉ですが、国際学会も開催され、大学院に専門科が設置されている国もあります。 Q2. セクソロジーを学ぶ意義には、どんなものがありますか? A2. 科学的根拠に基づいた性の知識が集積され、人々の「性の健康と権利」を実現することにつながります 性に関わることは、文化的・社会的にさまざまな考え方がされてきています。なかには科学的に間違った知識や、個人の心情に左右される考えが存在し、時には他者へのジャッジメントや差別につながることもあります。 これに対しセクソロジーでは、学術的専門分野として性に関する知見を包括して集積します。科学的根拠に基づく性知識の集積は、性教育や性の健康に関する政策のエビデンスとして機能します。 Q3. セクソロジーが今、日本で注目されている理由は? A3. 日本の性知識・性教育についてのアップデートが進みつつあるからです 1970年代から学術的に確立されてきたセクソロジーは、日本でも90年代に一度大きく取り上げられますが、その後下火に。ここ数年でやっと改めて注目されてきました。理由のひとつに、性教育やジェンダーフリーへのバックラッシュを経て、性の健康に対する議論が高まってきたということがあります。 さらに、今までの日本には、性について知識を得たいとき、包括的かつ科学的に正しい知識にアクセスできる機会が少ないという問題がありました。セクソロジーはその機会を作り出すためにも必要な学問で、現在日本に導入されつつある世界基準の「包括的性教育」における学術的根拠を支える存在としても重要視されています。 Q4. セクソロジーと現代の性教育の関係とは? A4. 昨今の性教育の国際的指針となっている「包括的性教育」の根幹のひとつがセクソロジーです 「包括的性教育」は、従来の性教育で連想されがちな体や生殖についてだけでなく、人権、ジェンダー、性の多様性、人間関係など性に関わる幅広いをテーマを含んだ学びで、世界的なセクシャリティ教育のスタンダードになりつつあります。 特に、ユネスコ等の国連機関により2009年に作成され、’18に改定された「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」は包括的性教育の手引きのような存在で、セクソロジーはこの包括的性教育を下支えするような学問の一つといえます。 また、性教育自体がセクソロジーの学術研究分野の一つでもあります。そのため「包括的性教育」の設計だけでなく、性教育が個人の健康に及ぼす影響の測定や分析も、セクソロジーの範疇といえます。 Q5. セクソロジーが現代社会に果たす役割は何ですか? A5. 性を通じて傷つくのではなく、人生豊かになる社会を作ることだと思います 性教育の不足は、ジェンダーに基づく差別や性暴力、想定外妊娠など、さまざまな社会課題にも関連していることがあります。それらが解決に向かうための包括的性教育の確立・普及にも、セクソロジーの研究成果が役立てられると思います。 また近年は、人が傷つかないことを目指すだけでなく、性に関わる側面でウェルビーイングが満たされること、そしてプレジャーの実現も性の権利の一部であるという認識も広がっていて、それらの研究成果を政策などにも反映させながら、みんなの幸せにも繋がる学問にもなりつつあるのかなと感じています。 Q6. セクソロジーが目指すものは? A6. すべての人の性と生殖の健康と権利、そしてセクシャル・ウェルビーイングの推進。日本においては、まずは認知されるところから 科学的根拠に基づいた性の知識の集積があり、誰もがアクセスできること。性について知りたいとき、頼れる情報にたどりつけること。それによって、それぞれの性の健康と権利が守られること。それらがセクシャル・ウェルビーイングの推進につながります。日本でもまずは「性についての学問分野があるんだ!」「知の集積があるんだ!」と知ってもらえたら嬉しいです。 福田和子 スウェーデン留学をきっかけに、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の実現を目指す『#なんでないのプロジェクト』を開始。国連機関勤務等を経て、『#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト』、W7Japan共同代表等として政策提言等を展開。共訳に「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(2020、明石書店)。女性の権利のための国際的ムーブメントWomen Deliver、She DecidesよりSRHRアクティビスト世界の25人、 Women Deliver Young Leade r2020に選出。「東大で性教育を学ぶゼミ」講師。WebFRaU×現代ビジネス等で連載中。2023年5月より東京大学多様性包摂共創センター特任研究員。 取材・文/久保田梓美 構成/渋谷香菜子