「稼げない」日本避けるベトナム実習生
「稼げる」 留学名目で渡韓
ハノイでは海外留学の専門機関「タンマイ・エデュケーション」にも足を運んだ。「留学先はどこが人気なのか?」と問うと、管理者のボン・トゥリ・ルックさんは「留学先は、希望よりも準備できる資金に左右されるんですよ」と困った顔をした。留学生は実習生と違って銀行などから資金を借りられない。親族や知人から借金をしてでも、自己資金で賄わなければならない。 同センターは留学先の国別に5クラスを設置し、計約150人が在籍している。最も多いのは韓国のクラスだ。ルックさんは「コロナ禍以前は日本が一番人気でしたが、今は韓国です」と話してくれた。理由は3つ。幼少期からK-POPなどに親しんだ若い世代の韓国への憧れ。次に、3種の文字を併用する日本語に対し、24文字のハングルだけで済む韓国語の学びやすさ。そして、最大の理由は「稼げる」ことだ。 名目は「留学」だが、彼らの目的は勉学ではない。韓国でも日本と同様、留学生のアルバイトには時間制限などがあるものの、日本に比べると緩い。ルックさんは「韓国では日本のように厳しく管理されません。週末も働く留学生が多く、月3500万~4000万ドン(21万~24万円)は稼げます」と話す。留学費用は日本が1億ドン(約60万円)に対して韓国は2億ドンかかるが、その差額はすぐに回収できる。多額の借金をしてでも、ベトナムの若者は「稼げる国」を目指すのだ。 合計特殊出生率が0.72と低く少子化が加速している韓国は、東南アジアなどから外国人労働者を受け入れてきた。毎年6万人前後だった受け入れ枠は、2023年12万人、24年16万5000人と拡大。日本の実習生の新規入国者数約18万人(23年)に匹敵する。 韓国の外国人労働者の平均給与は製造業を中心に約28.5万円(23年)で、日本の実習生の平均月額賃金21.7万円を(23年)を大きく上回る。ベトナム人にとって韓国が「現実的な出稼ぎ先」となれば、留学と同様に逆転現象が起こるだろう。来日にかかる負担軽減といった制度ももちろんだが、何より日本の賃上げこそが「選ばれる国」への最重要課題といえる。
【Profile】
澤田 晃宏 フリージャーナリスト、ともいきジャーナル(NPO法人日越ともいき支援会)編集長。1981年、神戸市生まれ。高校中退後、建設現場作業員、男性向けアダルト誌編集者、週刊誌「AERA」(朝日新聞出版)記者などを経て、フリーに。著書に『ルポ技能実習生』(ちくま新書)、『東京を捨てる コロナ移住のリアル』(中公新書ラクレ)、『外国人まかせ 失われた30年と技能実習生』(サイゾー)など。