「稼げない」日本避けるベトナム実習生
円安、インフレ… 応募が急減
裏金と接待を徹底的に排除してきた送り出し機関もある。その一つ、ハノイに事務所を構えるLACOLIで執行役員を務める宮本勇樹さんは、「裏金や接待は結果として実習生の負担となった。多額の借金を背負って来日するベトナム人実習生が、失踪したり犯罪に手を染めたりして社会問題となり、日本企業が敬遠するようになった」と説明する。ただ、「ベトナム離れ」の一方で、ベトナム人の「日本離れ」も生じている。 理由は円安だ。2022年2月以前は1円=200ドンを上回っていたが、その後円安が進行。今年6月には1円=160ドンを切る水準にまで下がった。実習生の多くは月に10万円ほどを母国へ仕送りをしており、円安による送金額の目減りは切実な問題なのである。 前出の送り出し機関の幹部は、日本のインフレも原因の一つだと指摘する。「物価高騰で日本での生活コストが増え、『日本は稼げなくなった』という話がベトナムで広まった。かつては採用予定者の3倍の応募者を集めるのが暗黙のルールだったが、今は2倍も難しい」。 同幹部によれば、ベトナムの経済成長もあって応募者が集まる最低ラインは、手取り給与から家賃を引いた額が月12万円、残業代を含めると月15万円だという。日本の人気低下を受けて、応募者から徴収する費用はかつての相場から1000~2000ドル下がった。
来日のため多額の借金、負担重く
とはいえ、ベトナム海外労働管理局によれば、2023年の労働者派遣先は日本が約8万人でトップだ。続く台湾は約5万9000人で、日本と台湾で全体の9割を占める。以前ほどではないが、海外で働こうとするベトナム人にとって、「現実的な選択肢」は今なお日本なのだ。 「現実的」とは、日本には一定の採用規模があり、語学力などの厳しい入国要件がないということだ。訪日のための資金の工面もしやすい。実習生としての採用が決まり、日本の出入国在留管理庁から在留許可が出れば、ベトナムの国営銀行などで借金できる。 出入国在留管理庁は22年、「技能実習生の支払い費用に関する実態調査」の結果を公表している。来日前に母国で借金をする実習生は約55%。国籍別に見ると最も高額なのはベトナムで、平均67万4480円(約4700ドル)だった。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によれば、ベトナム国内の製造業で働く労働者の基本月給は平均273ドル(23年)だから、借金の多額さがわかるだろう。 実習生がより高賃金を求めて日本での派遣先から失踪する事案が相次ぎ、多額の借金が要因の一つとして問題視された。実習生の負担軽減のため、国際協力機構(JICA)はベトナム政府や国際労働機関(ILO)と連携し、賛同するベトナムと日本の企業による人材紹介網作りに着手。来日費用の半額程度を企業が負担することを目指している。27年からは技能実習制度が「育成就労制度」に変わり、実習生が送り出し機関などに支払う費用の一部を、日本の受け入れ企業が負担する方針も出ている。歓迎すべきではあるが、それだけで日本を目指す若者が増えるとは思えない。